一億二千万分の一

人は、たった一つの運命を背負って生きている。
赤い糸とか、そういうのが本当に存在しているかなんて分からない。
けれど、一つだけ分かることがある。

自分は、こいつに出逢うために生きてきたんだって―――。



「う〜んと、一億二千万分の一かな?」
五月が突然、意味の分からないことを呟いた。
今は日曜日で、二人はドライブ中。
蒼太の運転する車で、今日は海を見に行くところだった。

「何が?」
恋人の発言にハテナマークを浮かべながら、蒼太は訊いた。

「私たちが出逢った確率!」

元気良く、にっこりと笑って彼女は言った。
何でもないことみたいに、サラリとすごいことを。

「……それって、日本人しか入ってないぞ」

視線は前に置いたまま、苦笑いをする。
いくら運転に慣れているとはいえ、余所見は危険だ。
しかも、今は自分の大切な人が隣にいる。
だから余計に。

「そっか。
 じゃあえ〜っと……」
横目で彼女を見れば、ぶつぶつと喋りながら指を折っている。
頑張って、世界中の人間の数を計算しているのだろう。
年より幼く見えるその行動に、思わず口元が緩む。
素直に、可愛いと思った。

「あ、今笑ったでしょ!」

パッと顔を上げ、彼女がこちらを睨んでいる。
良く見えないけれど、そんな気配がした。

「ごめん、ごめん」
それでも笑いながら、謝罪の言葉を並べる。
喜怒哀楽の激しい恋人が愛おしくて、心から謝ることなんて出来そうにない。

「む〜。
 あっ、でもとにかくすごい確率なんだよね!」

思いついたように、五月が笑った。
タンポポを思い出させる、あったかい笑顔。
蒼太は、それが好きだった。

「ん?」

「だって、全世界で考えちゃったら、
一億二千万分の一よりも大きい数になるんだよ!
 それって何だかすごいよね!!」

えへへと、満足そうに彼女は言う。

「そうだな」

自分も、そっと笑って返した。


どんな時も彼女は笑っていた。
その笑顔は、いつも自分に元気と希望をくれた。

まだ、俺はここにいていい。

そう、思わせてくれた。



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蒼太と五月のお話第2弾。
本当に突然思いついたネタです。
 


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