作中が語ることのなかった、後書き



 『宗一郎と燈子の45日間の空』を読んでいただきありがとうございます。「46番目の空」まで、読んでいただけたと仮定して、ネタばれいきます。「作品のバックグランドを語るのは、どうよ?」と思わなくもないんですが、補完しきれていなかったので『気になる方』向けに書いています。

 もともと「恋愛もの」を書きたくて、世界観は二の次な人間ですが、今作は投げっぱなし感が酷すぎるので、語ります。

□□舞台□□
 現代もので、首都圏とは名ばかりの片田舎を舞台にしています。モデルにしたのは千葉県です。ちょうど埼玉県と県境になっている周辺と、山側を勝手にモデルにさせていただきました。つまり、私の高校・大学時代の母校と、その周辺がモデルになっています。
 年代は、平成です。2000年前後の社会がモデルです。

□□背景(世界観)□□
 今作にふんだんに取り入れたのは、『境』の文化と『言霊』でした。

 山上は<やまかみ>であり、山の神で、女性を象徴します。古来、山の上は異界であり、神の領域でした。
 村上(むらかみ)一族は、異能ゆえに村の『神』であったため<むらかみ>で『村上』という姓を持つことになります。
 農耕民族にとって、天候を当てるその才は『神』そのものであったことに由来します。
 女性がその異能をより良く継ぐのは、村上が山上に住むためです。彼女らは、アマテラスオオミカミの子孫であり、太陽信仰を持っています。

 川上は、後から来た『神』です。ツクヨミノミコトを祀っていますが、その姓は『寺島』です。言霊を恐れ、「寺」と名乗っています。こちらは、男性に異能が表れやすいという設定でした。
 川は貴種流譚に代表されるように、客人(まろうど)がやってくる場所でもあります。川上の寺島一族は、流れ着いた客神です。

 登場人物にも、きちんと名前の意味がありました(言霊ですから)

村上宗一郎(むらかみ そういちろう)
 わかりやすく、村上を継ぐ男という意味です。「宗」にも「一郎」にも、後を継ぐ者という意味があります。

村上燈子(むらかみ とうこ)
 神は<かひ>に通じ、太陽は「日=火」ですので、火を「燈」す「子」は、特別な意味がありました。「と」は美称で、「お」は敬称です。「こ」は神の子(つまりは、神子)を指します。

村上慶事  恵子(むらかみ けいじ) (けいこ)
 作中の意味どおりです。恵子の「子」は、燈子の「子」と同じ意味です。

村上早与子(むらかみ さよこ)
 「さ」は、早いという意味で、美称。与えられた子を修飾します。

寺島光治 (てらじま こうじ)
 「光」を「治」めるで、こうじです。(次男なので2番目の子どもを意味する「じ」の音を持ちます)川上の跡継ぎ息子ですので、特別に「光」が名前に入っています。

大船美咲 (おおふな みさき)
 「大」きな「船」を造る。が由来の姓で、川上側苗字です。
 みさきは「み」が美称で「さき」を修飾します。みさきは「岬(船の出る場所。神を向かえ、送る場所)」で「御崎」です。


□□この作品でやりたかったこと□□
 元々、この作品はブログで発表していた作品でした。毎日、一作品ずつアップして、45日間で完結させました。それが2005年の3月です。
 お題の順番どおりに、主人公を替えずに、二人の関係を、日常をひたすらつづっていくという、実験的な作品でした。
 案の定、語り足りなくなって「誕生日」「46番目の空」を書き足しました(笑)
 学ランとセーラー服が似合う、少し田舎の高校生。幼なじみの二人を描くにしては、舞台が入り組んでしまったのは、完全な趣味です。
 どうにもファンタジー要素がないと話が書けないようで、気がつけば超能力少女が誕生していました。世界観で語った、作品のバックグラウンドは、ナチュラルに書き込んでいました。(取材はゼロです。大学で専攻していたあたりの話なんで)
 宗一郎を人間にするか、妖怪にするか、悩んでいて、途中までどちらでも取れるような書きっぷりをしてしまいました。結局、ごくフツーの人間に落ち着きました(笑)

 続編や番外編のご要望を嬉しいことにいただいておりますが、これはこれで完結です。次に書くとしたら、美咲ちゃんが主人公で、光司先輩につきまとわれる話になると思われます。


 さて、ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
「宗一郎と燈子の45日間の空」