3.青い鳥



 メーテルリンクの童話劇


 帰り道。
 話し手はいつも、少女の方。
 少年は無口で、相づちを打てば良い方で、たいてい前を向いて黙々と歩く。
「どうして、チルチルとミチルは鳥なんか探しにいったんだろう?」
 濃紺色のセーラー服のすそをひるがえし、軽やかに少女は歩く。
「鳥なんて、どこにでもいるよね」
 んー、と少女――燈子は思案顔。
「ねえ、どうして?」
 考えることを少女はあっさりと放棄した。
 頼りになる幼なじみの顔を見上げる。
 相変わらず無愛想な顔をだったが、少女は気にしない。
「幸せの使い、だからだろう」
 少女よりも、やや話に詳しかった少年――宗一郎は簡単に答える。
「幸せの使いだから?
 じゃあ、幸せにしてくれなかったら、鳥は探さないの?」
 なかなか核心的なことを燈子は尋ねた。
 宗一郎はしばらく考えるように、空を見上げた。
 二人の歩く足音が沈黙をリズミカルなものにした。
「それでも。
 鳥を探すんじゃないのか……?」
 宗一郎はしばらくして、答えを出した。
「ふーん」
 燈子は納得したようだった。
「じゃあ、二人は幸せになれたの?」
「結末を知らないのか?」
 少年は少女を見た。
 その瞳はほんの少し感情が読み取れた。
 驚いているのだ。
「うん」
 燈子は力いっぱいうなずいた。
 それに合わせて、高くくくった髪が元気良く跳ねる。
 それが、とても少女らしかった。
「今日、美咲ちゃんに教えてもらったばかりだから」
「……」
 宗一郎はためいきをついた。
 それから、自分の本棚の中身を思い出す。
「今日、家に来るか?」
 ぶっきらぼうに宗一郎は言った。
「良いの?」
 燈子の瞳はキラキラと輝いた。
 少年の家は純和風で、殺人事件とか怪談話とかにふさわしいような家だ。
 忍者屋敷みたいに、変なからくりがありそうで、探検するにはもってこいな家なのだが、両親から相手に迷惑をかけることになるから、と出入りは堅く禁じられている。
 が、誘われれば別だ。
「青い鳥が家にある」
 宗一郎は言った。
「えへへ♪
 早く、帰ろう!」
 燈子は嬉しそうに言った。


 幸せは、すぐ傍に。
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