特別な日
 去年の今は、なんでもない日だった。
 いつもと変わらない、ただの平日だった。
 けれども、今年は違う。
 君の好きな花を用意して、君の好きなケーキを買った。
 今日は一生に一度の特別な日。
 まだ大して生きていないけれども、その中でも格別な日。
 君と出会えたのは運命と呼ばせてくれないかな。
 素直で優しくて親切な君と出会って、僕は変われた。
 いつでも一生懸命で、真っ直ぐな君に救われた。
 表面上、取り繕うのが得意な僕を変えてくれた。
 君の前では飾らない自分を出せることが、どれだけすごいことか君は知らない。
 思えば出会いから、衝突ばかりしていた。
 不思議と君には素の自分を見せられていた。
 君を怒らせてばかりいた。
 いつもだったら、かかわりあわないように避けるはずなのに。
 僕は君と正面から向き合っていた。
 今まで出会ってきた女の子たちとは違う。
 君は純粋だった。
 君の善意は穢れ一つなかった。
 いつの間にか、君の笑顔が見たいと思うようになった。
 友だちの前ではにこやかな君も、僕の前では怒り顔。
 だから、余計に君の喜ぶ顔を見たくなった。
 言葉を重ねれば重ねるほど、嘘くさいと思われた。
 本心からの言葉も、君には届かなかった。
 どうすれば信用を得られるのか。
 そればかりを考えるようになった。
 近づけば近づくほど、僕の心は傷ついたけれどもやめられたかった。
 思えば意地になっていたのかもしれない。
 どこまでも公平で、あたたかい君なのに僕には冷たかった。
 思い返せば、それだけ君にとっても僕は特別だったのかもしれない。
 そんなことに気がつかないほど、僕は盲目になっていた。
 今にしてみれば笑い話だけれども、当時の僕には辛かった。
 ショートケーキのように甘い君の優しさに飢えていた。
 生まれて初めて恋に落ちた。
 好意を寄せてくれる女の子たちがわずらわしく思うほどに、君に惹かれた。
 顔を合わせれば、ぶつかってばかりいたのに。
 売り言葉に買い言葉。
 本当は、誰よりも優しくしてあげたいのに。
 僕も冷たい言葉を放ってしまう。
 そんな僕に、君は根気よく付き合ってくれた。
 僕が傷ついたように、君を傷つけていたのかもしれない。
 優しくしてくれないなら近寄ってきて欲しくなかった。
 我が儘な僕に、神さまは微笑んでくれた。
 とてもとても小さなきっかけだった。

 君が好きだ。

 それに気づかされた。
 去年の今日は、そんな日だ。
 僕にとっては特別な日。
 君にとってはなんでもない日。
 ありったけの気持ちをこめて「ありがとう」を言うよ。
 出会ってくれてありがとう。
 好きになってくれてありがとう。
 一緒にいてくれてありがとう。
 そして、これからもよろしく。
 「フラクタル」目次に戻る
 「紅の空」に戻る