iotuは宝石モチーフのランタンに秋の星を飼っている星人(ほしびと)。
瞳は菜の花色。飼っている星はたまに幸せな夢を見せてくれる。
星言葉は「夢で逢いたい」。星歌いと仲が良い。
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星飼いの街にて

 星に祝福された青年は夜空を見上げていた。
 いつも貸し切りな丘に今日は小さなお客さんが来たようだった。
 珍しいこともあるものだと青年は、菜の花色の瞳を細めた。
「やあ、小さなお嬢さん。
 どこから来たんだい?」
 青年は尋ねた。
 上等なドレスを身に纏った少女は不服そうな表情をした。
「“小さな”は余計よ」
「これは失礼。
 どうかお許しをレディ」
 青年は立ち上がり、恭しくお辞儀をした。
 それに満足したのか少女の顔に笑顔が浮かぶ。
「あなたは星人?
 綺麗なランタンね」
 少女は言った。
 青年は傍らにあったランタンを手にする。
「自慢のランタンなんだ」
 宝石でできたランタンは月光を受け、静かに煌めいていた。
「キラキラしていて、星みたいね」
「嬉しいことを言ってくれるね。
 今日は良い夢が見られるよ。
 ラッキーだったね」
 青年は微笑んだ。
 ランタンの中の秋の星は、たまに幸せな夢を見せてくれる。
「噂通りね。
 丘の上には幸せな夢を配る星人がいるって」
 少女は言った。
「どんな夢を見たいんだい?
 望み通りに観られるとは限らない。
 星は気まぐれだからね」
 青年は肩をすくめる。
 丘から見える景色を眺めるのが好きだったが、潮時だろう。
 噂がたつほど有名になっているのでは、静かに夜空を楽しめなくなる。
 星から生まれた星人とはいえ、万能ではない。
 出来ることと出来ないことがある。
「もう一度、お母様にお会いしたいの。
 好きだって、愛しているって伝えたいの」
 少女はうつむいた。
 青年は困ったことになった、と思った。
 少女のささやかな願いが叶えられるか分からない。
 曖昧な言葉で少女の苦しみを和らげることはできる。
 けれども、それはひと時のものだ。
 永遠に続くことではない。
 それをそのまま伝えるのは酷なことだと知っている。
 だから青年は言葉に詰まった。
 少女も感づいたのだろう。
 胸の前で組まれた小さな手が震えている。
「難しいのね」
 絞り出すように少女は言った。
「力になれなくてすまない」
 青年はためいき混じりに謝罪をする。
「夢で逢いたい、と思ったの」
 少女が口にした言葉は、青年の星言葉だった。
 だからこそ、絶対に叶えてあげたいという気持ちが強くなる。
 限界があるということが、こんなにも辛いことだとは知らなかった。
 神様は万能には作ってはくれなかった。
「話を聴いてくれてありがとう」
 少女は顔を上げた。
 そこには涙も、悲しみもなかった。
 ぎこちない作り笑いが貼りつけられていた。
「代価になるか分からないけど、お母様から習った歌を贈るわ」
「君は星歌いなんだね」
 星歌いは星を想って歌う歌い手だ。
 その歌は代々受け継がれていく。
 星人にとって、これ以上ない報酬だった。
「ええ。
 色んな歌をお母様から教えてもらったの」
 少女は自慢げに言った。
 夢の中でも逢いたい、と願った母はきっと素晴らしい星歌いだったのだろう。
 夜空を見上げながら少女は歌を紡ぎ始めた。
 星から生まれた星人なせいか、たどたどしい歌声でも気分が高揚するのが分かる。
 どうしてこんなに小さな少女の願い事を絶対に叶えてあげられないのだろう。
 自分の無力さに青年は複雑な気分になった。
 最後の音を残して歌は終わった。
 技術の面ではまだ課題があるだろうが、こめられた心情は素晴らしかった。
 きっと母譲りのものだろう。
 青年はランタンを置き、拍手した。
「ありがとう、星人さん」
「素敵な曲をありがとう。レディ。
 星も喜んでいるようだ」
 ランタンの中の秋の星がパチリッと爆ぜる。
 青年の心を表しているようだった。
 少女は、はにかみながら、丁寧なお辞儀をする。
「噂通りね。
 幸せな夢が見られたわ。
 素敵な時間を過ごせたわ。
 おやすみなさい。星人さん」
 少女は言った。
 過ごした時間が夢のように素敵だった、と労わられた。
 青年の胸に痛みが走った。
「今宵、幸せな眠りが訪れると約束するよ。
 おやすみ、素敵な星歌いのレディ」
 青年はせめてもの言葉を贈る。
 少女の瞳に切なげな光が宿った。
 泣くのをこらえるような表情だったが、その双眸は星のようにキラキラしていた。
 そう、まるでランタンの中の星のように。
 少女はもう一度、お辞儀をすると丘を下っていった。
 小さくなっていく後姿を見送る。
 月光では見えなくなるまで、青年は立ちつくしていた。
 一人きりになった丘で、万能な力が欲しいと思ってしまった。
 宝石でできたランタンが苛立つ青年を照らしていた。
 星から生まれたから、他者は余計に期待するのだろう。
 それは分かっていても、星から祝福された青年には納得できなかった。
 静かに更けていく夜の中、青年はためいきをついた。
 思ったよりも重苦しいものだった。
 誰も見ていないから零れたものだった。
 丘には静寂が戻ってきた。
 風に吹かれながら、青年は夜空を見上げた。
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