iotuの声は結晶化すると空色の宝石に変わります。石言葉は「美しい悲しみ」。声が桜色の宝石になる人と相性がいいです。
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声が宝石になったら

 青年は誰もいないと思って歌を唄った。
 それはキラキラと結晶化する。
 見る者もいない空色の宝石になった。
 角度を変えれば様々な色へと変化する。
 華やかな暁から始まって、夜が明け、天頂へと日が昇り、緩やかに日が沈み、やがて夜がくる。
 万華鏡を覗きこんだような眩さだ。
 結晶は曖昧な自分自身を映しているようだった。
 人々は珍しいと賞賛するけれども、あまり好きになれなかった。
 だから、誰もいないと思った丘の上で囁くように唄った。
 聞く者がいなければ余計な煩わしさはないと思った。
 背後から、拍手の音がした。
 驚き振り返ると、愛らしい少女が立っていた。
「とても綺麗な歌声ね」
 少女は涙を拭いながら言った。
 人の気配はしなかった。
 それだからこそ、唄ったのだ。
「こんな美しい悲しみを聴いたことがなかったわ」
 少女は青年の周りに落ちている空色の宝石を拾う。
「あなたはとても綺麗ね」
 拾った宝石を青年の手に返す。
 揺蕩う空のような宝石は、少女のぬくもりが移ったようだ。
 あたたかかった。
「あなた自身が綺麗だからかしら?」
 少女は小首を傾げる。
「ありがとう、レディ。
 レディも声が結晶化するのだろう?」
 気がつかなかったのは同類の証拠。
 でなければ、ずいぶんな武芸者だろう。
「そうよ。
 あなたぐらい歌が上手なら唄ってみせるのだけど……」
 少女は青年の手にふれる。

「あなたの歌声が大好きよ」

 キラキラと音を立てて桜色の宝石が生まれた。
 散っていく定めに抗うことなく、咲き誇る花のようだった。
 誰もが愛するような。
 春の到来を告げるような。
 儚いからこそ愛されているような。
 少女らしい結晶だった。
 薄紅色の煌めきに包まれて青年は嘆息した。
「レディ。
 貴女は優しい。
 このように美しいものを生み出すことができるのだから」
 青年は少女の瞳を見つめる。
 悲しみだけを生み出す自分とは大違いだ。
 青年の手の中には曖昧に移ろう空色の宝石と桜色の宝石が握られていた。
「素敵な歌を聴かせてくれたお礼よ。
 あなたの悲しみが癒えますように」
 少女は微笑んで、手を離した。
「貴女の魔法で悲しみは、どこかへ行ってしまったよ」
「そんなにすごいことをしたわけじゃないんだけれども。
 でも、あなたが気に入ってくれたのなら、光栄だわ」
 少女は下草に落ちていた最後の空色の宝石を拾う。
「これはいただいてもよろしいかしら?」
「美しいといっても悲しみだよ」
 青年は苦笑した。
 誰も欲しがらない。
 泣きたいのに泣けない人たちが貰っていく。
 そんな宝石だ。
 少女は陽気そのもので、泣きたいのに泣けないとは思えなかった。
「素敵な出会いの記念にしたいの。
 本当にあなたは綺麗よ」
 少女は朗らかに言った。
「そう思う、貴女の心が綺麗なのだよ」
 青年は心からの気持ちを伝えた。
「あなたは空のように綺麗なだけではなく、広大なのね」
 少女はクスクスと笑う。
 青年は何故、笑われたのか分からない。
 ただ、不快ではなかった。
「では桜色の宝石を記念に貰っていいだろうか?」
 青年は尋ねた。
「元から、それはあなたのものよ。
 綺麗な歌のお礼だもの」
 少女の明るい声が告げる。
「ありがとう、レディ」
 青年は微笑んだ。
「また、お会いできるかしら?」
「貴女が望むのなら」
「では、また会えるわね。
 再会の日を楽しみに待っているわ。
 さようなら。
 美しい悲しみの人」
 少女は手を振ると丘を下って行った。
 気がつけば、青空が淡く燃え始めていた。
 それをしばし見つめながら、青年は宝石を握り締めた。
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