[ 日記の小話ログ ]
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日記で垂れ流していた小話より、お気に入りの話だけ再アップです
[ 01 : 星のランプ]
 「星の光がイヤにささやかじゃないか?」
 「まあ、しょうがないよ
  夏だし」
 「しょうがないですむか!
  これじゃあ、ランプの材料にもなりゃしない」
 「イライラしていても、
  星の光は増えたりはしないよ」
 「文句の一つもつけたくなるってもんだ。
  夏のヤツめ、はしゃぎすぎなんだよ」
 「だって、夏だからね。
  子どもっぽくない夏って、想像つかないよ」
 「お前さんは、ずいぶんとのんびり屋じゃねえか?」
 「僕の数少ない取り柄だと思っているからね」
 「まったく、
  どうして、相棒はこんなにも頼りがないんだろうな」
 「その分、君が頼りになるからちょうど良いんだよ。
  そろそろ、星の光を集め始めない?」
 「ああ、面倒だな〜」

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[ 02 :ダイアモンド]
「ダイヤモンドになりたいの」
 乾いた目がつぶやく。
 喜びも、悲しみもない。
 大きなそのガラス玉が見つめる。
「そしたら、傷つかないですむでしょう?」
 かたくなな殻の内側には、もろい心がある。
 何もかもから逃げたい、と。
 これ以上、苦しみたくない、と。
 少女は言う。
 だから、この世で最も硬い鉱物になりたい、と言う。
 彼女こそ、ダイヤモンドのようだ、と青年は思っていた。
 誰もがうらやむような絢爛の美貌。
 前を歩き続けようとする意志。
 『誰にも征服できないもの』
「火にくべたら、跡形もなく燃えますよ」
 青年は言った。
「ええ、望むところだわ」
 少女は言った。

 本当に、彼女はダイヤモンド。
 何よりも硬い鉱物だと言うのに、火にくべたら燃えてしまう。
 頑強な外側と繊細な中身。

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[ 03 :なぞなぞ]
「なぞなぞだよ」
「うん、なあに?」
「それは世界で一番醜くて、それは世界で一番美しい。
 それはいったいどんなもの?」
「みにくくて、うつくしいの?」
「そうだよ。
 しかも、壊れやすくて、それでいてしなやかなもの」
「むずかしいよ」
「とても簡単な問題だよ。
 よーく、考えてごらん」
「うーん。
 ……。
 わからないよぉ」
「そうかい?
 それはね」
「うん」
「人の心だよ」
「え?」
「醜悪で、綺麗なものだよ」
「……むずかしいよ」
「そのうち、わかるようになるよ。
 人の心がどれだけ醜いか。
 そのくせ、素晴らしく美しいか」

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[ 04 :夏空]
「青い空には、はてのない夢がある気がする」
 庭先で空を見上げていた少女がぽつりと言った。
 その傍にいた少年も、つられて空を仰ぐ。
 夏のキッパリとした色の空が広がっていた。
 雲とのコントラストが目に痛い。
「じゃあ、夜は?」
 意地悪げに少年は問う。
 きょとんとした黒い瞳が少年を見る。
「さあ?
 何があるんだろう?
 一緒に考えてみよう!」
 少女は言った。
 まるで夏の日差しのように、まぶしい笑顔で。
 少年はうつむいた。

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[ 05 :どこかへ]
「ここじゃないどこかへ、行きたいわ」
「行ってどうするんですか?」
「どうしようもしないわよ」
「行くだけ、無駄ですよ」
「そう?
 きっと、そこにはロマンがあるわ」
「確信的ですね」
「だって、ここじゃないんですもの」
「まるで、ここには『ロマン』がないようです。
 ありませんか?」
「ここは、退屈で、窮屈よ」
「穏やかな日常がある、と言ってほしいですね」
「刺激が足りない、と思ったことはない?」
「ありませんね。
 あなた、一人で十分です」
「あら、そう?
 私には物足りないわ」
「だから、ここではない、どこかへ、行きたいのですか?」
「ええ。
 それとも、足りないロマンをあなたが補ってくれる?」
「前向きに対処させていただきます」
「つまり、やらないてことね。
 ああ、暇ね。
 嫌になるぐらい」
「どこかへ、行きますか?」
「いいわ。
 やめておく。
 あなたが『ロマン』をつくってくれるまで、
 ここで待っている」

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[ 06 :優しさ]
「優しくしないで」
 怒ったように彼女は言う。
 彼女は、変わっている。
 『変人』という類の人間だ。
 普通の人間だったら、泣いて喜ぶようなことでも、突っぱねる。
 いまだに理解ができないが『恋人』だ。
 どこをどうして、恋人同士になったかと言うと。
 ノリと勢いだろう。
 彼女は見るからに考えなしだ。
 その外見を裏切らないように、中身も考えるということが苦手だ。
「優しくされるの嫌いなの」
「じゃあ、僕はどうすれば良いんだい?」
 非建設的な意見に、尋ねる。
「うわべだけの優しさって嫌いなのよ。
 あなたの場合、条件反射的に他人に優しくするでしょ?」
 彼女は言った。
「偽ったつもりなんて、これっぽっちもないよ。
 神に誓ってもいい」
「だから、気をつけてね。
 あなたの偽善的で、無意識な優しさは嫌いなの。
 本音がわからなくなっちゃうでしょ」
 もっともらしく、彼女は言う。
 怖いくらい真剣だ。
 こういうときの彼女には逆らわない方が良い。
 経験上、嫌というほど知っている。
「努力はする」
 やるとは言わない。
 無意識なやさしさを、意識的に止めるなんて器用な芸当は自分にはできないだろうから。
「がんばってね」
 彼女は笑顔で言う。
 その笑顔に弱い自分は、ついついうなずいてしまうのだった。

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[ 07 :誕生日]
「おめでとう!」
 明るい色の瞳の少女は、その色そのものの声で言う。
 彼女のイメージは、常に空そのものだな、と僕は思った。
「何が?」
「今日、何の日だか、忘れちゃったの?」
 彼女は呆れる。
「覚えているよ。
 僕の誕生日だ」
 事実を告げる。
 それだけだ。
 今日は、誕生日。
「ちゃんと、覚えていたのね。
 感心、感心。
 だから、おめでとう!」
 彼女はにっこり笑う。
 よく晴れた青空のような笑顔。
「何を祝うのか、僕にはわからないな」
 僕は苦笑した。
「あなたが生まれてきたことを!」
「僕が生まれてきたこと……。
 嬉しい?
 君にとって、幸い?」
「そうよ」
 彼女はうなずく。
「やっぱり、わからないな」
「誕生日には、おめでとうって他人に言われるものなのよ」
「らしね。
 でも、僕にはわからないんだ。
 今日は、誕生日かもしれないけど。
 ごく普通の日だよ?」
「素直にありがとうって言いなさいよ!
 おめでとうって言われたんだから」
「形式的だね」
「言葉にしなきゃわからないことって、いっぱいあるもの!
 わたしは惜しんだりしないわよ」
 空色の瞳は、僕をにらみつける。


「ありがとう」

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[ 08 :帰り道]
「寒いね」
「と返ってくる、生暖かさ」
 と茶化すと、千秋はむっとする。
「寒いね、と返したほうが良かったか」
 オレの呟きは、白い息になる。
 木枯らし吹く季節、猫背の背をもっと丸めてとぼとぼと歩く。
 隣に幼なじみ兼同級生がいなかったら、みじめったらしいことになっていただろう。
 取り留めないことを考えていると
「そっちが正解!だよ」
 千秋はむっとしたまま言う。
 襟足でテキトーにくくられた髪が揺れる。
 脱色したような茶色の髪が、夕焼けでキラキラと輝いていた。
「なあに?」
「ん?」
「こっち見てたから、何か言いたいことでもあるのかと思って」
 鼻の頭まで赤くなっていて、ちいさい千秋は寒そうだった。
 まあ、オレから見れば大概の女子は「ちいさい」のだが、千秋はかなりちいさい方だ。
「いや、また茶色いなと思って。髪」
「……気にしてるんだから、言わないでよ」
 千秋はためいき混じりに言った。
「だから、言わないように気ぃつけてたんだけどな」
 言わせたのは、誰だ。なんてことはオレは言わない。
 ちいさい千秋が怒ると長いことを知っているからだ。
 落ち着いた赤茶の瓦が見えて、オレは立ち止まる。
「じゃあな」
 こじんまりとした家が千秋の家だ。
「ん、今日はアリガト」
「今日もだろ?」
「しょうがないじゃん。
 最近、この辺も物騒なんだから。
 近所に女の子の家があるなら、そっちに頼むんだから!」
「へいへい。
 オレが悪ぅございました。
 じゃあな」
 オレは片手を上げて、右に折れる道へと進む。
「宏平も気をつけてね」
 心配そうな声が投げつけられる。
「すぐそこだし、オレは男だからな」
 振り返って俺が笑うと、千秋は小さく手を振った。
「知ってるけど。念のため!」
 小憎らしいことを千秋は言った。
 オレはちいさい千秋を見納めて、自分の家へと急いだ。

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[ 09 :クリスマス]
 駅前の広場に、大きなクリスマスツリーが出現する。
 人工の木に、人工のオーナメント。
 人が多い場所だけに、いるのは家族連れや友達同士。
 微笑みを交わしながら、大きな歓声を上げながら、クリスマスツリーを見上げていく。
 ケータイのシャッター音やデジカメのフラッシュが賑やかだった。
 僕とお隣の美香子は、そろって駅前広場にやってきた。
 引っ越してきたばっかりの美香子は、この街では有名なツリーを見たことがないらしい。
 それを知った僕は、強引に誘った。
 僕はこの街がとても好きで、美香子にも好きになって欲しかったから。
 そんな単純な理由だった。



「クリスマスってあまり、好きじゃない」
 イルミネーションに照らされた横顔が呟いた。
 青と白の点滅をくりかえす光は、ハッとするほどの陰影を与える。
 青のときは、沈む悲しみ。
 白のときは、ありのまま。
 その声と相まって、不幸せそうに見えた。
「何で?」
 そう訊いた僕の声は、無残なほど震えていた。
 声が震えたのは寒いから、そうに違いないと自分に言い聞かせる。
 美香子が振り返る。
 青と白の幻想が見せたものだとしても、その瞳は透き通っていて綺麗だった。
「みんな幸せそうでしょ。
 だから、嫌い」
 美香子ははっきりとした口調で言う。
「みぃちゃんは、幸せじゃないの?」
「幸せになれたら、クリスマスも好きになれる?」
「たぶん」
 絶対、って言えばよかったと、口にしてから気づく。
 でも言い直すのは、変だった。
「なるくんは、幸せなんだね」
「?」
「クリスマス、好きなんでしょ?」
 だから、と美香子は寂しそうに笑った。


 彼女だけが幸せじゃないなんて。


「みぃちゃんが幸せなら、僕はもっと幸せになれるよ」
 本当のことを言った。
「なるくんは、お人よしだね。
 ……そういうお節介も、たまにはいいね」
 美香子は言った。
 再びクリスマスツリーを見上げる。
「ツリー見たいとか言って……ゴメン」
 僕もツリーを見上げる。
 青と白のイルミネーションは、星が落ちてきたようで、やっぱり綺麗だった。
 でも、幸せにはなれなかった。
 隣にいる女の子が、幸せじゃないから。
 そんなちっぽけな理由。
 僕には十分な理由。
「ツリーは、悪くないし。
 いいんじゃない?
 年中行事しとくのも」
「でもさ」


「ありがとう、なるくん」


 美香子は言った。
 僕は何も言えなくなった。
 手がかじかんで、麻痺するまでその場に立っていた。
 身体の心まで冷たくなるような風の中、僕と美香子はクリスマスツリーを見ていた。

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[ 10 :夜道]
 冷たい風の中、立ち尽くす人影。
 最近の子どもは塾通いが大変そうだな。
 そう思いながら、その人影の脇をすり抜ける予定だった。
 真ん丸の月を見上げる、子ども。
「おい」
 思わず男は声をかけた。
 肩でパッツンと切られた髪が揺れ、少女は振り返った。
「何してるんだ?」
「月を見上げていました」
 不審者に驚きもせず、少女は棒読みで答える。
 一瞬悩み
「靴は、どうしたんだ?」
 男は尋ねた。
 視線の先には、紙のように白い裸足があった。
「さあ?
 下駄箱になかったから」
 それでここまで歩いてきた。と少女は言った。
「親に電話して、来てもらえばいいだろ?
 ケータイは?」
「持っていません」
「じゃあ、公衆電話とか……。
 小銭ないなら、交番とかでも貸してくれるしな」
「持ってません」
「なら、じゃあやるから」
 男が服のポケットをあさっていると
「両親、この間、交通事故で他界しました」
 少女は淡々と言った。
「……保護者は?
 まだ、18歳になってないだろう?
 法律でちゃんと決まっていて」
「もう、18です」
 少女は言った。
「へ?」
「18です」
 少女は制服のポケットから、学生証を出した。
「……すぐ、そこが俺の家なんだわ。
 玄関まで来る気ないか?
 靴貸してやるよ」
「いいえ。
 このまま、歩いていこうと思います」
「どこまで?
 家、近いのか?」
 そんなはずはない、と男は思っていた。
「遠からず、というところです。
 このまま歩いていれば、両親と同じところにいけるような気がします」
 少女はポツリと言った。
「死ぬのはいつでもできる!
 とりあえず、俺の家に来てからでも遅くない」
 男は、少女の腕をつかんだ。
 熱い!と思った途端、その体がかしいだ。
 胸に倒れこんできた少女を抱きかかえ
「なんか、すごいもんひろちまったなぁ」
 と男は呟いた。

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[ 11 : Please be my valentine]
「あのさ」
 少年は、少女に声をかける。
 いつもより上機嫌な彼女に、少年は言葉につまる。
「何の用?」
 薄い青色の瞳が、少年を見上げる。
「……う」
「あ、もしかして、チョコレート欲しいの?
 でも、これはあげない」
 手にしていた箱を彼女はもてあそぶ。
「……」
 やっぱり、と彼は思う。
 あのチョコレートは、自分用だ。
 箱からして、高級チョコレートだとわかる。
「で、何の用?」
 彼女は問う。
「今日は、ほらバレンタインデーだからさ」
「だから?」
「これ」
 少年は背に隠していた、花を差し出す。
 一輪の紅薔薇。
「こっちが本式だから。
 その」
「……はい、交換ね」
 少女は箱を押しつける。
 少年が困惑している間に、紅の薔薇は彼女の手の中に。
「たまには、お祭り騒ぎも悪くないわね」
 彼女は言った。
 彼は、嬉しそうに笑った。

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