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アロマポットの白い皿の部分が気になった。陶器製のそれに精油の変質したものがこびりつき、しなびた果実の皮のようにへばりついているのだ。油が重なり層になったものだから水で洗っても落ちない。メラミン製のスポンジも無力であったし、重曹を溶かしたお湯でも変化はなかった。
posted at 06:22:45

ふとテーブルの上のカッターナイフが目に止まった。削ればいい。私はある種の感慨を持ってカッターナイフを手にした。自分専用のカッターナイフは1本50円の安物で、頼りない薄い刃が落ち着きのない色のプラスチックの胴体に包まれている。私だけの物であるカッターナイフで層になった油を削る。
posted at 06:26:25

私は刃物を扱うのが苦手だ。人の目が気になるせいだろう。誰かしらの視線があった。私の手つきが非常に危なっかしいのだろう。そのようなことを過去に言われたことがある。鋏、包丁は、それでも早い段階で慣れたような気がするが、カッターナイフだけは別物だったようだ。
posted at 06:28:13

今でもカッターナイフを扱うのが下手なままだ。一人ではないとき。私の手つきは常に注目されている。失敗してはいけないという緊張感が、私の手を震えさせる。結果はいつもの通りだ。
posted at 06:29:57

松脂を削るのもこのような気分になるのだろうか。琥珀を削るときはこのような気分になるのだろうか。ひと削りする度に、柑橘類の皮を剥いている時のような芳香が鼻をくすぐる。
posted at 06:32:37

レモン、ライム、グレープフルーツ、スウィートオレンジ、ベルガモット。抗菌、消化器系機能の亢進、精神の安定。風邪などへの抵抗を強め、食欲不振を改善し……抑うつ状態を緩和する。
posted at 06:35:14

元の通りとはいかないが、陶器製の白い皿は白い部分を見せた。水道水を注ぎ、スイッチを入れる。ポット内の電球がオレンジ色の光を放射し、部屋の壁にゆらりと映る。そして、グレープフルーツの精油を2滴。部屋は雨の日の香りになった。
posted at 06:36:59