0715-0718

小さな穴だらけになっていたカーテンに、全てのビーズを付け終えた。ほつれていた刺繍を解き、図案を描こうとしてチャコペンシルの不在に気がついた。手芸店で買うか通販するか悩み、図案の変更をするか否かで悩んだ。いつもの店で購入したチャコペンシルで同じ図案を描き、刺繍をした。
posted at 18:31:43

洗濯をして、それからビーズを縫い付けた。元の通りとは言えないが、カーテンレールに揺れるカーテンは白く、緑の糸と硝子が踊る。部屋に淡い影が落ち、光が拡散する。風の色だ。風が吹く度に、オーガンジーのカーテンが揺れる。湿度を多量に含んだこの季節特有のものであっても、気持ちの良いものだ。
posted at 18:36:38

青が似合う、といわれたことを思い出す。彼女なら青い刺繍糸で、波のような図案を刺繍するのだろうか。人魚姫の髪飾りのようなパールと魚鱗のような青硝子のビーズを縫いつけるのだろうか。刺繍などしそうな人物には思えないが。
posted at 18:39:59

青は嫌いな色ではない。モノクロームを選ぶだけだ。彩度が高いものを選ぶときには緑。それだけだ。身近にあった色がそうだった。他にも理由が必要なのだろう。カーテンの色は緑だというのは動かせない。たとえば、他では……次のワンピースは青生地で作ってみようか。
posted at 18:53:57

私に青は似合うのだろうか。似合うと言ってもらえるだろうか? ……誰に? そう、こういうときに考えるのは、決まっているのだから私は現金な体質なのだろう。彼はごく普通のタイプの人間なのだから、似合うかと尋ねる前に「似合う」と言ってくれる。信頼ではなく経験から弾き出される計算だ。
posted at 19:03:07

私は似合うかどうか不安に思う必要はないのだ。似合うと確実に言ってもらえるだから。
posted at 19:24:41

0718

私と彼の間にある「本当のことと」はミルフィーユのクリームのようなものだろう。堅い嘘と嘘の間に挟まれている。嘘は何重にもなっているのに、それ自体が堅いために脆い。フォークで突き刺せば見る影もなく崩れ去る。
posted at 17:10:06

ミルフィーユという形状を保てずに、クリームとパイに分離してしまう。そんなものによく似ている。私はミルフィーユという名の洋菓子を上手に食べられない。あの美しい形状を保ったまま食べられない。私の皿はいつでも美しくはない。
posted at 17:11:22

できるだけ食べないようにしている。けれども、貰い物はありがたくいただくしかない。純粋な好意がこもっているものを「美しく食べられない」という子どもじみた理由で拒絶するわけにはいかない。食べられない食べ物ではない。自分の皿を気にしなければ、美味しい食べ物だと思う。
posted at 17:12:09

今日の頂き物のミルフィーユは「とても美味しいミルフィーユ」なのだそうだ。作り手が私の皿を知らないのが幸いだ。繊細に重ねた芸術品が海の藻屑のようになっていると知ったら、ショックを受けるだろう。
posted at 17:13:25

ミルフィーユの一枚目。最初に「嘘」を置いたのは誰だろう。「本当のこと」というクリームを皿に載せる前に、初めに置かれたパイ生地。どれだけ時間をかけてクリームを載せても、最初に置かれたのは厚いパイ生地だ。クリームは容易に変形してしまう。
posted at 17:15:40

無残に皿に広がったクリームとボロボロになったパイ生地。私はミルフィーユを美しく食べることは……永遠にできないのだろう。彼なら美しく食べられるのだろうか。
posted at 17:16:06