ずっと



どこにも行きたくない。
ずっとここにいたい。
何よりも大切で、何よりも大好きだから。 


「帰っちゃうの?」
私は訊いた。 
言ってもしょうがないことだって知っていながら。
「うん、明日仕事だし」
当たり前のように彼は言った。
それがちょっと悲しかった。
「そっか。
 うん、そうだよね」
しょんぼりしながら彼を見つめる。
この人は、『帰したくない』とか思ってくれないのだろうか?
ちょっぴり拗ねたい気分だ。
「どうした?」
平均よりもだいぶ身長が高い彼。
背をかがめて私を覗く。 
その視線に耐えきれなくて、うつむいてしまう。
「ううん。
 ごめん、何でもない」
首を横に振る。
顔は上げられない。
今彼を見たら、泣いてしまいそうだったから。


「さつき」


名前を呼ばれて、思わず彼の方を見上げてしまった。
瞬間、額に暖かな感触を覚える。
キス……された?
ちょっと信じられなくて、額に手を当てる。
「い、今何かした……?」
まぬけな質問をしてしまったと、言ったあとに気がついた。


「俺だって、お前を帰したくないってこと。
 分かったか?」


おでこをこつんとされる。
放心中の私に、彼は告げた。
考えてること、見透かされちゃったのかな?
かなりびっくりだ。
胸が熱くなってくる。
耳まで赤くなってそう――。

「う、うん」

しどろもどろに答える。
「じゃあな。
 また会おうぜ」
ニコッと笑って、彼は歩き出した。
「うん、じゃあまた何時間か後に!」
歩き出した彼に、声を投げかける。
『また今度』より、『何時間か後』の方がまたすぐ会える気分になれるから。
明日も、一ヵ月後も『何時間か後』に変わりはないから。 
こちらを振り向かず、彼は手だけを振った。 



日々、大好きになっていく。
一分一秒ごとにこの想いは募っていく。
いくら「好き」って言っても伝わりきらない。
だって、それ以上に想いは大きいから。


毎日会ってても不安になる。
ずっと、いつまでも一緒にいたい。
そんな風に思う私は贅沢かな?


五月は考えをめぐらせながら、家路へと向かった。





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バカップルが書きたくなったために作られたキャラです。
あえて風景描写なしにしてみました。

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