甘
甘〜いお菓子と、甘〜い恋人。両方そろったら、最高だよね!
「ひっどい、キール!
何てことしてくれたのよ!」
「それはこっちのセリフだ!
何やってるんだ、お前は!」
魔法研究院に、二つの声が響き渡る。
あの運命の日から、ほぼ毎日繰り返される、日常。
メイとキールの、怒鳴りあいの喧嘩。
二度目の春を迎えたというのに、二人は相変わらずだった。
「はいはい、二人とも少し休憩しませんか〜?
仲が良いのは、素晴らしいことですけど〜」
いつの間に来たのか、アイシュが割って入ってきた。
「「仲良くなんてない!!」」
声が重なる。
それすらもムカついて、芽衣はキールを睨んだ。
「そうなんですか〜?
とりあえず、ケーキを焼いてきたので〜
ご一緒にどうですか〜?」
アイシュが、のんびりと言う。
ケーキという言葉に、芽衣はピクッと反応した。
「ケーキ!?
食べる食べる〜♪」
にぱっと表情を一変させる。
彼の作ったケーキは、格別においしい。
「全く、現金なやつだな」
ふうと、キールが溜息をつく。
むっとした顔で、芽衣は戦闘体制に入る。
「何か言った、キール?」
負けずと、キールもこっちを睨んできた。
「まあまあ。
では、お茶を用意してきますね〜」
こうして、三人の小さなお茶会が始まった。
美味しい紅茶と、甘いケーキ。
芽衣の大好きなものが、そこにそろっていた。
ただ、欲を言えばもう一つ。
欲しいと思うものがあった。
フォークをぎゅっと握ったまま、芽衣はキールをじっと見つめた。
「何だよ?」
視線に気がついたらしく、キールが訊いてきた。
「別に。
キールは甘くないな〜って」
思ったことを、そのまま口にする。
「はあ?」
「せっかくさ、甘くておいしいケーキがあるのに、
キールが甘くない。
な〜んかね〜」
むーっとしながらも、芽衣はケーキを口に運ぶ。
今日のケーキはチョコレートケーキ。
しつこくない甘さが、ものすっごくおいしい。
ほっぺたが、落ちちゃいそうなくらい。
「そうですね〜。
キールは確かに食べても甘くはありませんよ〜」
へらっとアイシュが答える。
全然意味が分かってないみたいだ。
「違う違う。
ん〜、ちょっと小さい頃の話なんだけど……」
と、その時だった。
「ああっ!
シオン様に呼ばれていたんでした〜!
すみません、僕はこれで失礼しますね〜!」
突然ガタンと音をたてて、アイシュが立ち上がった。
そうかと思えば、さっさと荷物をまとめる。
そして、疾風のごとき速さで走って行った。
「……早いね〜、こういう時は」
あっけにとられていた芽衣が、やっとのことで声を出す。
その頃には、もうアイシュの姿はなかった。
転ばないといいんだけど。
ちょっぴり、芽衣は心配になった。
「そうだな。
で、お前の小さい頃がなんだって?」
行儀悪く、肩肘をつきながらキールが言った。
話を聞いてくれる気はあるみたい。
それが、ちょっと嬉しかった。
「あ、うん。
小さい頃ね、色んな絵本を見てて思ったの。
大きくなったら、甘〜いお菓子と、甘〜い恋人。
両方そろったら嬉しいなって思ってたの」
えへっと芽衣が笑う。
ちょっとした、小さい頃の夢だった。
甘い、甘いケーキにお菓子。
甘い、甘い優しい恋人。
両方とも、手に入ったら素敵だな。
ずっとそう思っていた。
「で?」
相変わらず不機嫌そうに、キールが言う。
現実ってこんなもんなのかな?
ちょっと拗ねたくなってくる。
「だからね、キールが甘くないないなーって」
目の前の恋人に訴えてみる。
少しくらい、甘くしてくれたって良いと思う。
「甘いって……抽象的すぎないか?」
キールが、困った顔をした。
ほんの少し、頬が赤いのは気のせいなのかな?
「んーと、つまり甘やかして欲しいの!
べたべたに!
だって、恋人同士なんだよ、あたしたち」
テーブルに手をついて、キールに詰め寄ってみる。
「……お前、それ恥ずかしくないか?」
今度は確かに頬を赤くして、キールが呟いた。
視線は全然合わない。
「ち、ちょっと恥ずかしくなってきた」
言われてみて、初めて自覚した。
確かに、恥ずかしい……。
キールが、手招きをした。
はてなマークを頭に浮かべながら、キールのすぐ傍に行ってみる。
「ふえっ!」
突然、肩を抱きしめられた。
芽衣は、キールの腕の中に閉じ込められた。
温もりがすぐ近くにある。
その事実に、芽衣は胸がドキドキした。
「これでいいのか?」
ぼそっと、キールがささやく。
恋人は、とてつもなく恥ずかしそうだった。
「う、うん!」
早鐘を打つ心臓の前で、芽衣はぎゅっと手を握った。
甘い甘いケーキとお菓子。
甘い甘い優しい恋人。
それを今日、芽衣は手に入れた。