無
少女たちは無邪気な声で、今日も楽しくおしゃべりをしていた。「それでね、あいつったらヒドイんだよ!」
眉を少しつり上げて、栗色の髪の少女が声を荒げる。
ぶーっと頬を膨らませた表情は、どことなく本気ではない。
聞いていた少女たちは、持っていたティーカップを静かに置いた。
「あら、それでもメイは好きなのでしょう?」
「惚れた弱み、というやつでしょうか」
栗色の髪の少女は、ぐっと言葉を詰まらせる。
ほんの少し頬を染めて。
「う、うん……まあ、ね」
照れた表情のメイを見て、薔薇色の髪の少女と、金の髪の少女はくすりと笑う。
いつものことながら、聞いている方が恥ずかしい。
二人は、そう思った。
昼下がりの宮殿。
春らしい柔らかな陽射しの下、仲良し三人組は小さなお茶会を開いていた。
テラスに置かれたテーブルセットは白。
かけられたクロスは淡いピンク。
贅沢にフリルを使ったそれは、微かに吹く風に弄ばれ、ふわりと広がる。
淹れられた紅茶からは、甘い花の香り。
お菓子はもちろん焼き立てで、とびきり美味しいものがそろっている。
宮殿という場所にふさわしい風景。
それは、三人にとっての日常だった。
「じゃあ次はディアーナ!
ね、話してよ」
自分から話題を逸らそうとして、メイはディアーナに話しかける。
「わたくしは遠慮いたしますわ!
そ、そうですわ、シルフィスこそどうぞですの」
「私が、ですか?」
少し前に分化を終えたばかりのシルフィスに、話がふられる。
翠の瞳が、大きく見開かれる。
「ええ、そうですわ。
わたくし、シルフィスのお話はあまり聞いたことありませんもの」
これこそ妙案とばかりに、ディアーナは腰に手を当てる。
「アタシも聞きたい!
ね、シルフィス話してよ。
この前デートしたんでしょう?」
メイもイタズラっぽく笑って、シルフィスをせかす。
聞きたいというよりは、喋りたくないの方が正しいのでは。
と、金の髪の少女は思った。
それでも、話さない訳にはいかない。
二人はとてもおしゃべりが大好きだ。
聞くのも、話すのも。
シルフィスは、一つため息をついた。
「特に面白いことはありませんよ?」
一応、先に断っておく。
どちらかというと、自分は不器用だから、無難な話しかできない。
己を知っている少女は思う。
「いいのいいの!
シルフィスの恋ばなってだけで、貴重なんだから」
「メイの言うとおりですわ。
さあ、話してくださいな」
瞳をキラキラと輝かせて、無邪気……というよりは好奇心旺盛な笑顔で二人が迫る。
迫られた方は、仕方なく口を開いた。
無垢で無邪気で無遠慮な少女たちの日常は、まだ始まったばかり。