操
何かに操られてる。そんな感じがした。
「ご主人様!
おはようございます」
朝食をとるために食堂に向かうと、セラスの呑気な声が聞こえた。
昨晩あったことなど、まるでなかったような振る舞い。
こいつにとっては、日常的なことになりつつあるのだろう。
暗殺ですら。
「おはようセラス。
今日も元気ね」
椅子を勧められたので、それに大人しく従う。
相変わらず、セラスの下僕っぷりには頭が下がる。
「はい!
朝からご主人様のお顔が拝見できましたから。
これほど嬉しいことはありません」
まるで恋人にでも言うようなセリフを、さらりと言う。
案の定、周りから黄色い悲鳴が聞こえる。
本人は全くもって気にしていないみたいだが。
「ところでご主人様。
今日は何を召し上がるんですか?
ご用意しましょうか?」
「いいわ。
自分でやる」
「そうですか。
あ、卵料理にするんでしたら……」
「うるさい!」
ごちゃごちゃ口出しをしてくるので、思わず怒鳴ってしまった。
周囲が一瞬しんとなる。
怒鳴ってしまったことを後悔するが、もう後の祭り。
「すみませんご主人様。
ご主人様には、いつでも美味しいものを食べて欲しいと思うと。
無礼をお許しください」
へらっと笑って、セラスが許しを請う。
こういうところまで、普段と変わらない。
思わず、溜息がもれる。
「許すわ。
いいから、席に着きなさい」
「はい、ご主人様!
やっぱり私のご主人様は、お優しい方ですね!」
今度はもっとへらへらした笑顔になる。
本当にセラスというやつは……。
頭を抱えたくなるが、何とか平静を装って朝食の準備をする。
昨晩。
外部からの警備に厳しいはずのこの学校。
そこに、暗殺者は現れた。
誘引の魔法を私にかけ、庭に呼び出した。
セラスのせいで違う恐怖を味わったが、今思い出すとやはり寒気がしてくる。
魔法が使えない自分。
身を守る術を持たない自分。
改めて、それが恐ろしいと思った。
言霊の件については良く分からない。
多分、偶然の産物なのだろう。
……そうでも思っていないと、やっていられない。
従者を決める必要性を、身をもって教えられた。
そんな夜だった。
「ご主人様?」
暗い思考を絶ったのは、心配そうな声だった。
「大丈夫よ。
何でもないわ」
無理に笑ってみせる。
気を使うような間柄でもなかったが、何となくそうしてみたかった。
意地ともいうのかもしれない。
「そうですか。
辛かったりしたら、言ってくださいね。
ご主人様のお役にたてること。
それが、私の幸せなんですから」
いつもなら流してしまうような言葉が、すっと心の中に溶け込んでいく。
温かい。
守られている。
セラスの言葉が、素直に嬉しいと思った。
「ありがとう」
感謝の気持ちを音にする。
途端、セラスは満面の笑みを浮かべた。
「どういたしまして、ご主人様!」
誰かが喜んでくれることが、こんなに嬉しいことだなんて。
セラスにつられて、少女も柔らかな笑みを浮かべた。
操られたくない。
守られるだけの存在になるのは嫌だ。
そんな気持ちが、言霊の力を発揮したのだろう。
アリシアはそう思うことにした。