陽だまりの中で

 どこからどこまでが草原なのか。
 分からないほど広い地で、自分は育った。



「今日は、オスカー様の故郷のお話が聞きたいです!」
 金の髪の女王候補は、いつになく明るい声で告げた。
 女王試験が始まって間もない頃。
 日の曜日に、二人は少女の私室にいた。
「お嬢ちゃんは物見高いな。
 その話は、俺の中でもとっておきのものなんだぜ」
 緋色の髪の男は、フッと声をもらした。

 故郷。
 それは、自分にとってなくてはならない存在。
 そこで生まれ、育ち、家族を残していった場所。
 幸せな記憶と悲しい記憶が、一つずつ蘇ってくる。
 草原の惑星と呼ばれた美しい星。
 一言で片付けるには、もったいないほどの生地(せいち)。

「少し、付き合ってくれないか?」
「え?」
「故郷の話を聞きたいんだろう?」
「あ、はい」
 半ば強引に、少女を席から立たせる。
「お嬢ちゃんには、特別だ」
 甘い甘い声で、耳元にささやく。
 緑柱石色の瞳を見開く彼女に、軽くウィンクをしてみせる。
 頬を真っ赤に染めた少女の手を、オスカーは優しくとった。

 ***

「わぁ、きれい!」
 紡がれた言葉は、心からの賛辞だった。
「そうだろう?
 ここは俺のお気に入りの場所なんだぜ」
 聖地によく似た造りの飛空都市。
 こちらに来てから、オスカーは何度となくここに足を運んでいた。
 どこまでも続いていそうな草原。
 暖かい風に吹かれ、揺らめく小さな野の花々。
 見晴らしの良い、小高い丘。
 その頂には、シンボルのような大きな木がある。
 新緑色に包まれた地上は、楽園と呼ぶにふさわしい場所。

「つれてきてくださって、ありがとうございます!」
 広がる草原よりも深い色の瞳を持つ少女は、満面の笑みを浮かべる。
 金の髪は太陽の光を帯びて、一層輝く。
 風はそれを弄び、微かな甘い香りを運ぶ。
 オスカーは、その様子に満足そうに笑った。

 管理された飛空大陸。
 永遠に変わることなどない大地。
 それでも、どこか重ねてしまう。
 自分の大切な生家に。

「俺の故郷は、こんなところさ。
 まあ、ここの方が劣るけどな」
「すごいですね!
 オスカー様の故郷、見てみたいです」
 無邪気な声で、少女が告げる。
「フッ、まるで愛の告白みたいだな」
「え?」
 瞳を瞬かせて、天使の名を持つ少女は小首を傾げる。
 どこまでも純粋で、どこまでも無垢な彼女。
 たとえ女王になったとしても、それは失われないだろう。
 ほんの少し、故郷に似ている。
 男は、そう思った。
「まあいい。
 木陰に行ってみないか?
 いい景色が見られるぜ」
「はい!」
 嬉しそうな少女を見て、オスカーは愛らしいと思った。



 陽だまりの中、二人は語り合う。
 お互いのこと。
 試験のこと。
 とりとめのない会話からは、笑顔が生まれる。
 しばしの休息の時間を、二人は楽しんだ。

 守護聖と女王候補。
 これから、二人の物語は始まる。
アンジェ阿弥陀、投稿作品
お題は【陽だまりの中で】でしたv

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