<ワンシーン・バトン>
以下のシーンやテーマから、セリフとシチュエーションを連想して下さい。
・静かなる追憶(曹操・陳宮)
・もうすぐ果てる身体(策大)
・死地に赴く(策大)
・課せられた使命(陸尚)
・引き裂かれた絆(馬謖・諸葛亮)
・払拭した過去(陸尚)
・永劫回帰(丕甄)
・嘘(劉禅×星彩)
・約束(司馬懿・曹丕)
ワンシーンバトンですが、せっかくなのでHTMLにしてみましたv
完全なる趣味に走った為、モブも出てきますので要注意です♪
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(地雷予防のため、超縦長でお送りしてます・滝汗)
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バトンですので、やってみたい方いましたら、ご自由にどうぞ〜v
静かなる追憶(曹操・陳宮)
「――惜しいことをした」
発した音はすぐ横を通り過ぎた風に、かき消される。
真っ赤な装束に包まれた少女の元まで届くことはなく。
惜しいことをした。
本当に惜しいことをした。
あの男の娘は今、まさに巣立とうとしていた。
籠から飛び立つのか。
それとも、籠に飛び立つのか。
曹操にすら、それは分からなかった。
「惜しいことをした」
男はもう一度音をもらす。
声にすらならない、不完全なそれはやはり、賑やかな囃子の中へと消えた。
陳宮。
世が早く平定されることを、最も強く望んだ人物。
その娘は今、花嫁装束に身を包んでいた。
「――惜しいことをした」
発した音はすぐ横を通り過ぎた風に、かき消される。
真っ赤な装束に包まれた少女の元まで届くことはなく。
惜しいことをした。
本当に惜しいことをした。
あの男の娘は今、まさに巣立とうとしていた。
籠から飛び立つのか。
それとも、籠に飛び立つのか。
曹操にすら、それは分からなかった。
「惜しいことをした」
男はもう一度音をもらす。
声にすらならない、不完全なそれはやはり、賑やかな囃子の中へと消えた。
陳宮。
世が早く平定されることを、最も強く望んだ人物。
その娘は今、花嫁装束に身を包んでいた。
もうすぐ果てる身体(策大)
血の匂いが辺りを支配する。
金属が打ち合う音が、耳の奥で響く。
戦場という名の墓場で、孫策は本陣へと引き返していた。
小さな妻の肩を借りながら。
ぼやける視界の中、孫策は少女の名を呼ぶ。
愛しいと思う、ただ一人の妻の名を。
「だい、きょう」
ちゃんと呼んだつもりだったが、聞こえたんだろうか?
うまく音になっているだろうか?
「孫策さま!
あと少しです……。
あと少しで帰れますから!」
叫びながら、少女は自分の倍以上もある体を引きずってくれる。
怪我をしていないわけじゃない。
辛くないわけじゃない。
それなのに、大喬は泣いていなかった。
聴こえてくる声に。
伝わってくる空気に。
涙は見えない。
「お前……つよくなったな」
喉が張り付いて、声が出ない。
可愛らしい顔も、小さな体も、かすんでしまってよく見えない。
それでも。
それでも、孫策はとにかく褒めてやりたかった。
本当はいつもみたいに、頭を撫でてやりたかった。
抱きしめて、泣いていいんだと言ってやりたかった。
情けない。
不甲斐ない。
孫策は奥歯をかみしめる。
あまりにもみっともない夫に、大喬は呆れないだろうか?
「私も精一杯頑張ります。
だから、孫策さまも諦めないでくださいね!」
耳のすぐ近くで声が聴こえた。
大喬はただ、懸命に前に進んでいる。
何も恐れず。
ただ真っ直ぐに。
「ああ」
孫策は口元に笑みを作る。
痛みなんかに、負けてる暇はねぇ。
あと少し。
あと少し。
限界まで抗ってみよう。
孫策は温もりを感じながら、そう決意した。
血の匂いが辺りを支配する。
金属が打ち合う音が、耳の奥で響く。
戦場という名の墓場で、孫策は本陣へと引き返していた。
小さな妻の肩を借りながら。
ぼやける視界の中、孫策は少女の名を呼ぶ。
愛しいと思う、ただ一人の妻の名を。
「だい、きょう」
ちゃんと呼んだつもりだったが、聞こえたんだろうか?
うまく音になっているだろうか?
「孫策さま!
あと少しです……。
あと少しで帰れますから!」
叫びながら、少女は自分の倍以上もある体を引きずってくれる。
怪我をしていないわけじゃない。
辛くないわけじゃない。
それなのに、大喬は泣いていなかった。
聴こえてくる声に。
伝わってくる空気に。
涙は見えない。
「お前……つよくなったな」
喉が張り付いて、声が出ない。
可愛らしい顔も、小さな体も、かすんでしまってよく見えない。
それでも。
それでも、孫策はとにかく褒めてやりたかった。
本当はいつもみたいに、頭を撫でてやりたかった。
抱きしめて、泣いていいんだと言ってやりたかった。
情けない。
不甲斐ない。
孫策は奥歯をかみしめる。
あまりにもみっともない夫に、大喬は呆れないだろうか?
「私も精一杯頑張ります。
だから、孫策さまも諦めないでくださいね!」
耳のすぐ近くで声が聴こえた。
大喬はただ、懸命に前に進んでいる。
何も恐れず。
ただ真っ直ぐに。
「ああ」
孫策は口元に笑みを作る。
痛みなんかに、負けてる暇はねぇ。
あと少し。
あと少し。
限界まで抗ってみよう。
孫策は温もりを感じながら、そう決意した。
死地に赴く(策大)
風がすぐ横を通り過ぎていく。
冷たくて、無感情な風が。
「いいか、ここは死に場所じゃねぇ。
次につなげるための場所だ」
傍らに立つ夫が、力強く訴える。
まるで自分に言い聞かせるようだと、大喬は思う。
何かあった時には、すぐに役に立ちたい。
時折苦しそうな表情を見せる夫の気分を、少しでも和らげたい。
そう思って、少女は孫策のすぐ傍に控えていた。
「はい、孫策さま」
周囲の空気を通して、緊張が伝わってくる。
こちらまで、声が震えそうになる。
まだ戦は怖い。
人を殺すのも、殺されるのも恐ろしい。
それでも、大好きな人の願いを叶えたいから、大喬はここに立っていた。
「俺たち孫呉の天下、絶対に取ってやろうぜ。
そしたらお前も、周瑜や小喬もずっと笑って暮らせる」
「はい」
自分だけでなく、妹のことも心配してくれている。
それがとても嬉しくて、大喬は笑みを浮かべた。
「けどよ、あんまり無茶はすんじゃねぇぞ」
「分かってます。
孫策さまこそ、無茶すんじゃねぇぜ!
ですからね」
夫の顔の前に、びしっと拳を突きつける。
いつも孫策が言う台詞を、今日は自分が言ってみせる。
本当は泣いて叫んで止めたいくらいだった。
これ以上、無茶なんてしないでゆっくりと休んで欲しいと言いたかった。
けれど、それは絶対に無理なこと。
強制することなんて、出来ないことを大喬は知っていた。
それが『孫策』という人で、自分の夫なのだと分かっていたから。
「ははっ、こりゃ参ったな」
楽しそうに笑う孫策を見て、大喬もクスクスと声をもらす。
ここは死に場所なんかじゃない。
大喬はその言葉を胸に刻んだ。
風がすぐ横を通り過ぎていく。
冷たくて、無感情な風が。
「いいか、ここは死に場所じゃねぇ。
次につなげるための場所だ」
傍らに立つ夫が、力強く訴える。
まるで自分に言い聞かせるようだと、大喬は思う。
何かあった時には、すぐに役に立ちたい。
時折苦しそうな表情を見せる夫の気分を、少しでも和らげたい。
そう思って、少女は孫策のすぐ傍に控えていた。
「はい、孫策さま」
周囲の空気を通して、緊張が伝わってくる。
こちらまで、声が震えそうになる。
まだ戦は怖い。
人を殺すのも、殺されるのも恐ろしい。
それでも、大好きな人の願いを叶えたいから、大喬はここに立っていた。
「俺たち孫呉の天下、絶対に取ってやろうぜ。
そしたらお前も、周瑜や小喬もずっと笑って暮らせる」
「はい」
自分だけでなく、妹のことも心配してくれている。
それがとても嬉しくて、大喬は笑みを浮かべた。
「けどよ、あんまり無茶はすんじゃねぇぞ」
「分かってます。
孫策さまこそ、無茶すんじゃねぇぜ!
ですからね」
夫の顔の前に、びしっと拳を突きつける。
いつも孫策が言う台詞を、今日は自分が言ってみせる。
本当は泣いて叫んで止めたいくらいだった。
これ以上、無茶なんてしないでゆっくりと休んで欲しいと言いたかった。
けれど、それは絶対に無理なこと。
強制することなんて、出来ないことを大喬は知っていた。
それが『孫策』という人で、自分の夫なのだと分かっていたから。
「ははっ、こりゃ参ったな」
楽しそうに笑う孫策を見て、大喬もクスクスと声をもらす。
ここは死に場所なんかじゃない。
大喬はその言葉を胸に刻んだ。
課せられた使命(陸尚)
その日、陸遜は次の戦の総指揮官を任された。
大きな戦ではないが、天下を統一するためには重要な戦の指揮であった。
初めての大きな仕事に、陸遜は緊張した面持ちで堂を後にした。
「逃げたくならない?」
回廊の柱から、ひょこっと顔を出した少女は言う。
どこで聞いていたのか、と問おうとしたが陸遜は首を横に振るだけでとどめた。
孫呉の姫君が神出鬼没なのは、今に始まったことではなかったから。
「……いいえ」
課せられた使命はとても重い。
まだ弱輩である自分が、本当に成功を収められるか心配ではある。
正直怖いとも思う。
それでも、逃げてはいけないと知っているから、陸遜は否と答えた。
「本当に?」
「はい」
さらに問いかけてくる弓腰姫に、少年は頷く。
出来れば、少女に嫌われたくはない。
不安要素を自ら作るほど、陸遜は馬鹿ではないつもりだ。
「陸遜はすごいのね」
若緑よりも鮮やかな色の瞳が輝く。
尊敬というほど重くない言葉が、胸に響く。
すごい、という台詞がこれほど心地好いとは知らなかった。
「私はそんなにすごくありませんよ」
謙遜ではなく、本心から。
少年は言う。
「そうかしら。
私から見たら、十分すごいわ」
ニッコリと笑う少女に、陸遜も微笑みを浮かべる。
すぐ傍で、こうして笑っていてくれるのがとても嬉しかった。
「ありがとうございます」
若き軍師は、心の底から感謝の気持ちを述べた。
その日、陸遜は次の戦の総指揮官を任された。
大きな戦ではないが、天下を統一するためには重要な戦の指揮であった。
初めての大きな仕事に、陸遜は緊張した面持ちで堂を後にした。
「逃げたくならない?」
回廊の柱から、ひょこっと顔を出した少女は言う。
どこで聞いていたのか、と問おうとしたが陸遜は首を横に振るだけでとどめた。
孫呉の姫君が神出鬼没なのは、今に始まったことではなかったから。
「……いいえ」
課せられた使命はとても重い。
まだ弱輩である自分が、本当に成功を収められるか心配ではある。
正直怖いとも思う。
それでも、逃げてはいけないと知っているから、陸遜は否と答えた。
「本当に?」
「はい」
さらに問いかけてくる弓腰姫に、少年は頷く。
出来れば、少女に嫌われたくはない。
不安要素を自ら作るほど、陸遜は馬鹿ではないつもりだ。
「陸遜はすごいのね」
若緑よりも鮮やかな色の瞳が輝く。
尊敬というほど重くない言葉が、胸に響く。
すごい、という台詞がこれほど心地好いとは知らなかった。
「私はそんなにすごくありませんよ」
謙遜ではなく、本心から。
少年は言う。
「そうかしら。
私から見たら、十分すごいわ」
ニッコリと笑う少女に、陸遜も微笑みを浮かべる。
すぐ傍で、こうして笑っていてくれるのがとても嬉しかった。
「ありがとうございます」
若き軍師は、心の底から感謝の気持ちを述べた。
引き裂かれた絆(馬謖・諸葛亮)
「……馬謖」
「はい」
戦場だというのに、その場は静まり返っていた。
声をあげる者はただ二人。
馬謖と呼ばれた男と、諸葛亮だけだった。
「私はあなたを、罰しなければなりません」
残念ですが、と諸葛亮は言う。
その言葉に馬謖は救われた気がした。
丞相は自分という存在を、失いたくないと言ってくれた。
これから死する臣下を惜しんでくれた。
絆など、存在していないと思っていた。
我ら二人の間には、何もないと思っていた。
けれど今、確かに感じた。
糸よりも細く、不確かな絆というものを。
「この度の失態は、この命をもって償わせて頂きたく存じます」
馬謖ははっきりと、最後の意志を示した。
「……馬謖」
「はい」
戦場だというのに、その場は静まり返っていた。
声をあげる者はただ二人。
馬謖と呼ばれた男と、諸葛亮だけだった。
「私はあなたを、罰しなければなりません」
残念ですが、と諸葛亮は言う。
その言葉に馬謖は救われた気がした。
丞相は自分という存在を、失いたくないと言ってくれた。
これから死する臣下を惜しんでくれた。
絆など、存在していないと思っていた。
我ら二人の間には、何もないと思っていた。
けれど今、確かに感じた。
糸よりも細く、不確かな絆というものを。
「この度の失態は、この命をもって償わせて頂きたく存じます」
馬謖ははっきりと、最後の意志を示した。
払拭した過去(陸尚)
薄い雲が空にかかる。
そんな、暖かな日のこと。
少年はお気に入りの木陰で、書簡を手にしていた。
「りくぎ」
「え?」
呼ばれて、少年は思わずパッと振り返る。
そこには良く見知った少女が、少し不機嫌そうに立っていた。
懐かしいと呼ぶにはまだ新しい記憶が、体の中をめぐる。
「そう、呼ばれていたんでしょう?」
頬を膨らませて、尚香が尋ねる。
女官か誰かが、そっと耳打ちしたのだろう。
可愛そうな陸家の総領だ、と。
「過去のことです」
微笑んでみせると、尚香はもっと不機嫌な表情になる。
彼女の機嫌が悪い理由はだいたい見えてきた。
尚香に黙っていたこと。
今まで事実を知らなかったこと。
知る努力をしてこなかったこと。
そう、彼女は自分に対して怒っているのだ。
「……いいの、それで?」
不満げに少女が訊く。
どこにぶつけたらいいのか分からない感情を、自分に向けてくれる。
陸遜はそれが嬉しいと思った。
「皆さんが呼んでくれる名前が、私の名前だと思っていますから」
あなたが、と言いかけて少年は言葉を飲み込んだ。
今はまだこれで充分。
傍にいられて、こうして自分を探してくれるだけで充分だ。
「本当に?」
「はい、嘘ではありません」
まだ疑いの眼差しを向けてくる少女に、断言する。
眩しい緑の瞳を前にして、嘘をつける人間などいないだろう。
こんなに真っ直ぐで、綺麗な色の前で。
「じゃあ、りくそん。
一緒に遠乗りに行きましょう!」
さっと目の前に手が差し出される。
救いを求めてではなく、救い出してくれる光として。
「はい」
差し出された手を、陸遜はしっかりと取った。
過去は過去。
今は今。
そう思えるのは、彼女のおかげだと少年は強く感じた。
薄い雲が空にかかる。
そんな、暖かな日のこと。
少年はお気に入りの木陰で、書簡を手にしていた。
「りくぎ」
「え?」
呼ばれて、少年は思わずパッと振り返る。
そこには良く見知った少女が、少し不機嫌そうに立っていた。
懐かしいと呼ぶにはまだ新しい記憶が、体の中をめぐる。
「そう、呼ばれていたんでしょう?」
頬を膨らませて、尚香が尋ねる。
女官か誰かが、そっと耳打ちしたのだろう。
可愛そうな陸家の総領だ、と。
「過去のことです」
微笑んでみせると、尚香はもっと不機嫌な表情になる。
彼女の機嫌が悪い理由はだいたい見えてきた。
尚香に黙っていたこと。
今まで事実を知らなかったこと。
知る努力をしてこなかったこと。
そう、彼女は自分に対して怒っているのだ。
「……いいの、それで?」
不満げに少女が訊く。
どこにぶつけたらいいのか分からない感情を、自分に向けてくれる。
陸遜はそれが嬉しいと思った。
「皆さんが呼んでくれる名前が、私の名前だと思っていますから」
あなたが、と言いかけて少年は言葉を飲み込んだ。
今はまだこれで充分。
傍にいられて、こうして自分を探してくれるだけで充分だ。
「本当に?」
「はい、嘘ではありません」
まだ疑いの眼差しを向けてくる少女に、断言する。
眩しい緑の瞳を前にして、嘘をつける人間などいないだろう。
こんなに真っ直ぐで、綺麗な色の前で。
「じゃあ、りくそん。
一緒に遠乗りに行きましょう!」
さっと目の前に手が差し出される。
救いを求めてではなく、救い出してくれる光として。
「はい」
差し出された手を、陸遜はしっかりと取った。
過去は過去。
今は今。
そう思えるのは、彼女のおかげだと少年は強く感じた。
永劫回帰(丕甄)
戦と戦の合間。
わずかな休息の時間に、甄姫は決まって碁盤を持ってくる。
にっこりと微笑んで、必ず言うのだ。
「碁を打ちましょう」
と。
「これで何度目だ?」
房室にやってきた甄姫に、曹丕は苦笑する。
もう何度こうして碁盤を前にしただろう。
「さあ、忘れてしまいましたわ。
数える時間すら、惜しいものですから」
笑みを浮かべる妻は、まるで子どものように強情だった。
いつだったか、暇つぶし程度に碁の相手をした。
が、気がつけば佳人はのめり込んでいた。
自分を負かすということに。
「そろそろ諦めろ、甄」
「いやですわ。
せめて一度くらい、我が君に勝ってみせます」
天上が創った完全なる美貌の持ち主が、むきになる。
なんとも人間らしい行動だと、曹丕は口元に笑みをはく。
「では、手を抜いてやろう」
勝たせる気など毛頭なかったが、青年は言う。
甄姫が否、と答えるのが分かっていたから。
「それでは意味がありません」
「そういうものか?」
「ええ。
我が君に勝つまでは、一生続けますわ」
笑顔で怖いことを言ってくれる。
曹丕は肩をすくめ、従うことを決める。
「勝手にしろ」
「はい」
嬉しそうに頷く妻を見て、曹丕も微笑みを浮かべた。
甄姫が負け続けている間は、共にいられる。
声を聴き、触れることも叶う。
だからこそ、曹丕は手を抜くことが出来なかった。
終わって欲しくないと願うほどに。
永遠を祈ってしまうほどに。
青年は甄姫という女に、のめり込んでいた。
※永劫回帰(同じものが永遠に繰り返してくること)
戦と戦の合間。
わずかな休息の時間に、甄姫は決まって碁盤を持ってくる。
にっこりと微笑んで、必ず言うのだ。
「碁を打ちましょう」
と。
「これで何度目だ?」
房室にやってきた甄姫に、曹丕は苦笑する。
もう何度こうして碁盤を前にしただろう。
「さあ、忘れてしまいましたわ。
数える時間すら、惜しいものですから」
笑みを浮かべる妻は、まるで子どものように強情だった。
いつだったか、暇つぶし程度に碁の相手をした。
が、気がつけば佳人はのめり込んでいた。
自分を負かすということに。
「そろそろ諦めろ、甄」
「いやですわ。
せめて一度くらい、我が君に勝ってみせます」
天上が創った完全なる美貌の持ち主が、むきになる。
なんとも人間らしい行動だと、曹丕は口元に笑みをはく。
「では、手を抜いてやろう」
勝たせる気など毛頭なかったが、青年は言う。
甄姫が否、と答えるのが分かっていたから。
「それでは意味がありません」
「そういうものか?」
「ええ。
我が君に勝つまでは、一生続けますわ」
笑顔で怖いことを言ってくれる。
曹丕は肩をすくめ、従うことを決める。
「勝手にしろ」
「はい」
嬉しそうに頷く妻を見て、曹丕も微笑みを浮かべた。
甄姫が負け続けている間は、共にいられる。
声を聴き、触れることも叶う。
だからこそ、曹丕は手を抜くことが出来なかった。
終わって欲しくないと願うほどに。
永遠を祈ってしまうほどに。
青年は甄姫という女に、のめり込んでいた。
※永劫回帰(同じものが永遠に繰り返してくること)
嘘(劉禅×星彩)
※劉禅は星彩と同じ年の設定です。
「劉禅さま」
呼ばれて、青年はふと振り返った。
妻であり臣下でもある、少女の方に。
「私にだけは、本当のことを仰ってください」
「星彩……?」
不躾ともとれる言葉に、劉禅は一瞬ためらった。
何のことだ、とごまかそうとしたがそれは許されない。
彼女の真っ直ぐな瞳に、嘘などつけそうになかった。
「そんなに私は頼りないでしょうか?」
ほとんど表情は変わらない。
けれど、劉禅には分かった。
星彩が悲しんでいること。
悔しいと思っていることが。
「そういう訳ではないんだよ、星彩」
劉禅は諭すように名前を呼ぶ。
愛しいと思う少女に、辛い思いをさせてしまった。
心配をかけてしまった。
申し訳ないと思うと同時に、そんな彼女が可愛らしいと思ってしまうのはいけないことだろうか。
「では、どういう訳なのですか?」
星のように煌らかな瞳がこちらを見つめる。
一転の汚れも許さない星が、ただ真っ直ぐに。
青年は観念し、大きく息を吐く。
結局、彼女に嘘やごまかしは通用しないのだ。
「その……。
見栄を張りたかっただけ、なんだ」
「見栄、ですか?」
「ああ」
意外な答えだったのだろう。
星彩は目を少し見開く。
「男というのはね、女性の前では見栄を張りたがるものなのだよ」
「それは、父上もだったのでしょうか?」
「……多分、ね」
過去の猛勇がそうであったかは、分からない。
ただ一つ言えるとすれば、男というのはとても身勝手な生き物だということだ。
「そうですか」
理解してはいないのだろうが、どうやら納得はしてくれたようだ。
何気ない仕草一つすら、劉禅にとっては愛おしく思える。
「しかし、それも今日でやめるとしよう」
「?」
「星彩に叱られてしまったからね」
悪戯心から、劉禅は笑って言う。
まじめな彼女がどんな反応をするかなど、分かりきっていたけれど。
「申し訳ありません」
思った通り、星彩は膝をつき謝罪しようとする。
それを制して、劉禅は真白な手を取った。
「謝る必要なんてない。
私たちは主従である前に、夫婦なのだから」
「……はい」
頷いた少女の頬が、ほんの少しばかり赤く染まっていたように見えたのは、気のせいだったのだろうか。
※劉禅は星彩と同じ年の設定です。
「劉禅さま」
呼ばれて、青年はふと振り返った。
妻であり臣下でもある、少女の方に。
「私にだけは、本当のことを仰ってください」
「星彩……?」
不躾ともとれる言葉に、劉禅は一瞬ためらった。
何のことだ、とごまかそうとしたがそれは許されない。
彼女の真っ直ぐな瞳に、嘘などつけそうになかった。
「そんなに私は頼りないでしょうか?」
ほとんど表情は変わらない。
けれど、劉禅には分かった。
星彩が悲しんでいること。
悔しいと思っていることが。
「そういう訳ではないんだよ、星彩」
劉禅は諭すように名前を呼ぶ。
愛しいと思う少女に、辛い思いをさせてしまった。
心配をかけてしまった。
申し訳ないと思うと同時に、そんな彼女が可愛らしいと思ってしまうのはいけないことだろうか。
「では、どういう訳なのですか?」
星のように煌らかな瞳がこちらを見つめる。
一転の汚れも許さない星が、ただ真っ直ぐに。
青年は観念し、大きく息を吐く。
結局、彼女に嘘やごまかしは通用しないのだ。
「その……。
見栄を張りたかっただけ、なんだ」
「見栄、ですか?」
「ああ」
意外な答えだったのだろう。
星彩は目を少し見開く。
「男というのはね、女性の前では見栄を張りたがるものなのだよ」
「それは、父上もだったのでしょうか?」
「……多分、ね」
過去の猛勇がそうであったかは、分からない。
ただ一つ言えるとすれば、男というのはとても身勝手な生き物だということだ。
「そうですか」
理解してはいないのだろうが、どうやら納得はしてくれたようだ。
何気ない仕草一つすら、劉禅にとっては愛おしく思える。
「しかし、それも今日でやめるとしよう」
「?」
「星彩に叱られてしまったからね」
悪戯心から、劉禅は笑って言う。
まじめな彼女がどんな反応をするかなど、分かりきっていたけれど。
「申し訳ありません」
思った通り、星彩は膝をつき謝罪しようとする。
それを制して、劉禅は真白な手を取った。
「謝る必要なんてない。
私たちは主従である前に、夫婦なのだから」
「……はい」
頷いた少女の頬が、ほんの少しばかり赤く染まっていたように見えたのは、気のせいだったのだろうか。
約束(司馬懿・曹丕)
司馬懿が青年と初めて出会ったのは、まだ立太子していない頃であった。
「一つだけ、お約束をしていただけませんか?」
人払いのすんだ房室に、司馬懿と曹丕はいた。
しんと静まり返った場で、痩身の男は声を発した。
「なんだ?」
「私よりも早く死を選ばない、と。
これが貴方に仕える条件です」
頭を垂れつつも、男は気配を感じ取れた。
青年の一挙一動が手に取るように分かる。
それほど、曹丕は分かりやすい人物であった。
「どういう意味だ?」
「そのままです」
問われて、司馬懿は答えを返す。
そう、そのままなのだ。
主が臣下よりも先に逝ってしまっては、意味がない。
この乱世。主人の鞍替えは慎重でなくてはならないのだ。
せっかく面白そうな青年を見つけたというのに、死なれては困るのだ。
「……いいだろう。
もとより、そのつもりはない」
「御意」
より深く頭を垂れ、司馬懿は服従の意を示す。
黒羽扇を微かに揺らすと、小さな風が頬を撫でる。
「ではこれからは、お前を仲達と呼ぶ。
良いな?」
「御意のままに」
仲達は笑みを湛える。
この青年の歩む道は今、全く見えない。
天下の民にとって吉と出るか、凶とでるか。
面白いことになった、と仲達は笑みをはくのだった。
司馬懿が青年と初めて出会ったのは、まだ立太子していない頃であった。
「一つだけ、お約束をしていただけませんか?」
人払いのすんだ房室に、司馬懿と曹丕はいた。
しんと静まり返った場で、痩身の男は声を発した。
「なんだ?」
「私よりも早く死を選ばない、と。
これが貴方に仕える条件です」
頭を垂れつつも、男は気配を感じ取れた。
青年の一挙一動が手に取るように分かる。
それほど、曹丕は分かりやすい人物であった。
「どういう意味だ?」
「そのままです」
問われて、司馬懿は答えを返す。
そう、そのままなのだ。
主が臣下よりも先に逝ってしまっては、意味がない。
この乱世。主人の鞍替えは慎重でなくてはならないのだ。
せっかく面白そうな青年を見つけたというのに、死なれては困るのだ。
「……いいだろう。
もとより、そのつもりはない」
「御意」
より深く頭を垂れ、司馬懿は服従の意を示す。
黒羽扇を微かに揺らすと、小さな風が頬を撫でる。
「ではこれからは、お前を仲達と呼ぶ。
良いな?」
「御意のままに」
仲達は笑みを湛える。
この青年の歩む道は今、全く見えない。
天下の民にとって吉と出るか、凶とでるか。
面白いことになった、と仲達は笑みをはくのだった。
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