木こりの仲達
むかーしむかし、あるところに。金持ちなのに、なぜか木こりの司馬ちゅー……もとい、司馬仲達がおりました。
仲達はそれはそれは真面目な青年で、朝早くから森に木を切りに出かけていました。
そんな、ある日のこと。
「なぜ私が木こりなのだ、馬鹿めが!」
今日も上機嫌に、仲達は森に向かいます。
「上機嫌だと?
ふざけるのもたいがいに……!」
何と言われようと、仲達は上機嫌に♪森に出かけていきます。
舌打ちのようなものが聞こえましたが、それも小鳥のさえずりにかき消されました。
ああ、なんと美しい朝。
風に揺られる花や木々の輝きといったら、天上のものにも勝るでしょう。
とかなんとか言っているうちに、目的地に到着です。
すぐ側には湖もあり、サボる準備も万端。
さすがは切れ者仲達です。
持って来たお弁当をそこらへんに置き、早速木を切り始めます。
森の中に、斧で木を打つ音がこだまします。
鳥たちの美しい声との二重奏。
ああ、なんて素敵にジャパネ……じゃなくて、素敵な光景でしょう。
今仲達が使っている斧。
実はこの領地を占領、いえ。
支配、ではなく、統治していた曹操からもらったプレミアもの。
世界でたった一つしかないと思われる、由緒正しき品なのです。
……多分。
「ああ、手が滑った」
思い切り棒読みで。
しかも、かなりワザとらしく仲達は斧を手から滑らせてしまいました。
どこか確信犯的な匂いがしますが、この辺はスルーしましょう。
「ふん。
これで良い」
何と、仲達は大切な斧を湖に落としてしまいました!
これは大変なことです。
もちろん、仲達も大慌て。
落胆の表情を浮かべて、湖の脇に立ち尽くしています。
「誰が立ち尽くすか、馬鹿め!!!」
と、その瞬間。
突風が吹き、仲達の叫びは飲み込まれます。
都合の悪いことは聞かない主義なので。
「湖にものを落とした者はお前か?
仲達よ」
ざばーっという音が聞こえたかと思うと、水面には一人の青年が立っていました。
なぜかずぶ濡れで。
「何をしてるんですか、あなたは!」
「何をしているも何も。
寸劇だ寸劇。
どうだ、似合うだろう?
これは甄のお手製なのだ」
青年、曹子桓は迷惑なほど爽やかな笑顔で自慢を始めます。
精霊らしく、ひらひらでずるずるな衣装は、妻のお手製だそうで。
が、せっかくのお召し物も、水に濡れて台無しです。
絹はとても繊細なんですよー。
「仕事はどうしたんですか、仕事は!」
なおも畳みかけようとする仲達。
湖の精霊曹丕さまは、そんなことお構いなしです。
「ふっ、だがそんなことは問題ではない」
出ました。
本人的には決めゼリフだと、信じて疑っていないあのセリフです。
しかも、ご本人さま陶酔しきってます。
いつの間にか、バックには薔薇が咲き誇ってキラキラしています。
「……」
仲達も何も言えない模様です。
まあそりゃあそうでしょうね。
さすがの仲達も、これは予想してなかったことでしょう。
ところで曹丕さま、そろそろ次のセリフを。
「おお、忘れていた。
ところで仲達。
お前に一つ聞かなければならないのだ」
「はあ」
「お前が落とした物は、
この金の葡萄か、銀の葡萄か?」
「はああああああ!!!???」
台本にはありませんが確かに。
曹丕さまの、いえ。
湖の精霊さんの手には、きんきらきんに輝くゴールド葡萄と、ぎらぎら輝くシルバー葡萄があります。
どうやら本気のご様子。
「どちらだと訊いている。
早く答えぬか」
「普通の斧に決まっているだろうが、この凡愚めが!」
勢いに乗って、仲達は正直に答えます。
確かにプレミア的価値はあるものの(多分ね)、結局は普通の斧。
仲達の答えは、正解と言えるでしょう。
「ふっ、正直者だな仲達よ。
お前のような臣を持って、父もさぞ幸せだっただろう。
では、お前にはこれをやろう」
口の端だけを上げて、湖の精霊が笑います。
そして、手の中の葡萄を仲達に手渡しました。
仲達が怒鳴りすぎて、息を切らしている間に。
「ではな。
楽しく元気に、木こり生活をするがよい。
さらばだ、仲達よ」
捨てゼリフを残して、湖の精霊は底に潜っていきました。
鼻をつまみながら。
「いらん……こんな、もの……」
未だぜーはーしながらも、仲達は何とか反論してみます。
が、もう後の祭り。
手の中にはしっかりと、悪趣味な葡萄が二つ。
正直に答えたにも関わらず、なぜか斧は返ってきませんでした。
それからというもの。
木こりの仲達は斧がなくなったのをいいことに、木こりをやめてしまいました。
押し付けられた葡萄をオークションにかけ、持ち前の頭脳で、あることないことふっかけて、大金を手に入れることに成功したためです。
まさか精霊さんも、自分が渡した葡萄がこんな風に使われるとは思ってもみなかったことでしょう。
かわいそうな精霊さんですねー。
ええ本当に。
何だかんだで、結局仲達は隠居生活をエンジョイしてしまいましたとさ。
おしまい。