好きなところ

「孫策様。
 一つ訊いてもいいですか?」
 大喬は夫に問いかける。

「おう。
 どうした?」
 いつもと同じ笑顔で、孫策は答えた。
「私の、どこが好きですか?」

 ずっと、胸のうちに秘めていた疑問。
 それを初めて口に出した。

「どこ、か。
 うーんそうだな」
 孫策は腕を組み考える格好をする。
「……わかんねえ。
 どこなんだろうな」
 いとも簡単に考えることをやめてしまう。
 その速さに、大喬は呆れるしかなかった。
「分からないんですか?」
 期待していた答えではなかった。
 思わず責めるような口調になる。
「全然わかんねえ。
 悪いな、大喬」
 何でもないことのように振舞う姿に、悲しくなってしまう。
 一つぐらい、言ってくれると思っていたのに……。

「そう、ですか」
 しゅんとうなだれる。
 もしかして、この人の気持ちは私から離れてしまっているのでは。
 そんなことを思ってしまう。
 何度好きって言われても、こう言われるとそれすら信じられなくなってしまう。
「失礼します」
 大喬は部屋を出ようとする。
 こんな気持ちのままここにいたら、泣いてしまいそうだったから。

「おい、ちょっと待った大喬」
 こちらの気も知らないで、孫策は呼び止めた。
「……」
 無視して出て行こうとする。
 が、それは無理だった。
 気がついた時には、後ろから抱きしめられていたから。
「孫策様っ!?」
 いきなりすぎる展開に心臓が早鐘を打つ。
「あのな、一つだけあったわ」
 低めの声が降ってくる。
 背筋がぞくぞくするほど大好きな声が。
「えっ……?」
 一瞬何のことだか分からなくなってしまった。
 それぐらいどきどきしている。
「お前の好きなとこ。
 知りたいか?」
 意地悪にも問いかけられる。
 知りたいと分かっているはずなのに。
 孫策様は本当に意地の悪い人だ。
 
「はい」
 大喬は自分に回された手にそっとそれを重ねる。
 男の人らしい、大きくて温かな手。
「大喬だったから好きになった。
 これじゃ駄目か?」
 はっきりと断言された。
 情緒のかけらもない言葉。
 でも、彼らしくて嬉しかった。
 求めていた以上の言葉に、大喬は微笑んだ。
「十分です、孫策様」
 これで十分。
 またこうして不安になる時があるかもしれない。
 そうしたら、この言葉を思い出そう。
 これだけは私のためだけにある言葉だから。
「そか?
 なら良かった」 
 抱きしめられていた腕に力が入る。

「そういや、大喬は俺のどこが好きなんだ?」
 ふいに耳元で囁かれる。
「えっ!?」
 思いもしない展開に、大喬は驚く。
「俺も聴いてみたいな」
「そ、それは……」

 たくさんありすぎて言葉に表せない。
 それぐらい彼が好き。
 この世で誰よりも愛している。
 出会った時から今でも、一番好き。

「俺だって言ったんだ。
 大喬も言ってくれるよな?」
 まさかこんな展開になるなんて。
 今更ながら、自分のしたことを後悔し始めた。
「え、えっと……。
 そんな、恥ずかしくて」
「俺のこと好きなのが恥ずかしいのか?」
 孫策はあり得もしないことを言う。
「そういうわけじゃありません!
 い、言わなきゃ駄目ですよね?」
 大喬は夫を見上げて言う。
「ああ。
 聴きたい」
 にこりと微笑まれる。
 逃げたくても、こうやって抱きしめられていたら逃げられない。

「……そ、孫策様だから、です」
 やっとのことで言えたのはその一言だった。

 すでに頬は熱く、耳まで熱を帯びているのが分かる。
 心臓など、よく壊れないものだと感心したくなるほど早く鳴り響いている。
 自分の想いを声に出すのはとても大変なこと。
 胸が締めつけられる思いで、大喬は腕の中にいた。
「それだけか?」 


 孫策の意地悪はとどまることを知らない。
 一度火のついた彼はそう簡単には止められなかった。



 この後も大喬は、孫策による恥ずかしい質問攻めに遭うのだった。
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