闇の王は光の花を愛でる

 世界は停滞という微睡みの中にあった。
 それは永遠にも似た死が作り出す空間だった。
 闇王フュムビディロは終わることのしれない領地に、ほんの少し飽いていたのかもしれない。
 そんな折に姉である光王レクスィオーナの招待状が届いた。
 珍しいものを見せたい、と末尾に書いてあった。
 フュムビディロは出席する旨を綴り、使者に託した。
 全ては気まぐれなことだった。
 運命を司る女人たちに誘われたのかもしれない。
 光王とは姉弟だが、成人してからはお互いの領地を出て、会うことは珍しかった。
 フュムビディロは臣下に領地を頼むと、供もつけずに姉王の居城に向かう。
 天上の世界は記憶よりも明るかった。
 青年は紫の瞳を細める。
 まるで一点の影になってしまったようで、心細くなる。
 緑が萌え出づり、姉王の瞳を思い起こさせた。
 爽やかな風がフュムビディロの黒髪をさらっていく。
 いったいどんな珍しいものがあるのだろうか。
 光王にふさわしい白亜の城を目指して歩を進めた。

   ◇◆◇◆◇

「よく来たな! 珍しいものを見つけたのだ。
 それをそなたに見せたくて呼んだはいいが……」
 レクスィオーナは、ためいきをついた。
 燃え立つような炎の色の髪を簡単に結んでいたが美しさは損なわれなかった。
 光そのものが体現した姿に、自分との差を考えてしまう。
「このざまだ。
 茶も振舞えずに悪いな」
 姉王は執務机に山になった書類を軽く叩く。
「宴までには片付けてしまうから、散策でもしていてくれないか。
 父上がご存命の頃は共に暮らした場所。
 懐かしい景色もあるだろう」
 忙しい姉の気遣いを裏切ることができない。
「そうですね。
 ゆるりと巡らさせていただきます」
 フュムビディロはお辞儀をすると執務室から退出した。


 どこもかしこも光に溢れていた。
 眩しすぎた。
 フュムビディロは歩き続ける。
 懐かしい景色は輝きに満ちていた。
 想い出の中にある風景よりも明るすぎて、俯いてしまう。
 己の影を見ながら歩いていたフュムビディロの耳に音が届いた。
 歌だ。
 透明な声が歌を唄っている。
 心惹かれるものがあって、フュムビディロは丘を登る。
 登り切った先はより明るかった。
 花が謳っていた。
 フュムビディロは驚き、紫の瞳を瞬かせる。
 本物の花ではない。
 頭に冠のように花を戴いた娘が座っていた。
 自然と目があった。
 ちょうど今のような空色の瞳は、宝石よりも美しかった。
 花精族だ。
 人の子たちが乱獲し、絶えた種族だとされていた。
 娘も光を編んだかのような日差しの色の髪に、艶やかな花を咲かせていた。
「仲間はどうした?」
 フュムビディロは尋ねた。
「もうすぐ黒い野獣が来ると聞いて逃げました」
 昼空色の瞳が物おじせずに言った。
「お前は逃げなかったのか?」
「それが」
 娘は足首をさする。
「くじいたか」
 フュムビディロは娘の前に座り、足首にふれる。
 歩けるように神気を分け与える。
「ありがとうございます」
「一時的なものだ。
 痛みを取り除いただけだ。
 きちんと治療を受けなければ、また痛み出すだろう。
 それで、逃げなくていいのか?」
 フュムビディロに言葉に娘は不思議そうな顔をする。
「私が黒い野獣だ」
「こんな優しい野獣はいませんわ」
「宝石のように美しいのは外見だけではなく、心もか」
 フュムビディロは呟いた。
「名前も知らないのに助けていただいて感謝します。
 わたしはティティリーアと申します。
 ティーとお呼びください」
 娘はにこやかに笑う。
「簡単に名を明かすなど、ずいぶんと暢気な。
 名前を呼ばれたら、支配されてもおかしくはないのだぞ」
 善良すぎる娘にフュムビディロは驚きを隠せなかった。
「見ず知らずだというのに、助けていただきました。
 そんな方が悪意を持って名前を呼ぶとは思えません」
 キッパリとティティリーアは言った。
 観賞用に乱獲された理由が分かるというもの。
 一緒にいられたなら穏やかな心を持てるだろう。
「仲間のところへ行け。
 きっと、待っているだろう」
 これ以上、娘と話していたら頭痛が増す。
「ありがとうございました。
 黒い野獣はとても優しい方だということをみんなに伝えますね」
 娘は立ち上がると、丁寧に礼をした。
 花冠からほろほろと光が零れて、綺麗だった。

   ◇◆◇◆◇

 久しぶりの闇王の訪問ということで宴は大規模なものになった。
 光王の隣で舐めるように酒を呑む。
 賑やかな場はあまり得意ではなかったが、熱気に水を差したくなかった。
 領地に帰れば、停滞にも似た平穏が待っている。
 光のあたたかさにふれておくのも、貴重な体験だろう。
「姉上。いささか酒がすぎませんか?」
「この上ない喜びに、盃も進むものだ。
 姉弟が揃うのはいつぶりか?
 領地にこもって、なかなか出てこない。
 正直、寂しい思いをしている。
 そなたは違うのか?」
 レクスィオーナはなじる。
 完全な絡み酒にフュムビディロは困る。
 酒気だけで酔いそうだった。
「母上からいただいた大切な役目。
 果たすだけで精いっぱいの日々を送っております。
 姉上に不義理を働いておりますれば、心も重く」
 弁明しようとしたが、背中を力いっぱい叩かれる。
「よいよい。
 こうしてまた酒を酌み交わしている。
 今を楽しもうではないか」
 レクスィオーナは言う。
 ふと、何か思いついたのか緑の双眸を輝く。
 悪戯っ子のような表情を浮かべる。
「今日の記念に、何か一つ持ち帰るといい。
 ……それがいい。
 何が欲しいか?
 天上にしかないものもある。
 どれでもいいぞ」
 姉王の言葉にフュムビディロは思考を巡らせる。
 思い出したのは昼間の光景だった。
 歌を唄っていた花の隣で咲いていた野の花たち。
 青年の領地では咲かすのが難しい。
 枯れてしまっても押し花にすればいつまでも一緒にいられるだろう。
「では、花を一輪……いただけるでしょうか?」
 フュムビディロは言った。
 酒の席での約束。
 忘れ去られてもかまわない口約束だった。
「花、とな。
 ……なるほど。
 王に二言はない。
 明日、立つ時までに用意させよう」
 レクスィオーナは言った。


 昨日の酔いが残っているのか酷く気だるげな朝を迎えた。
 来るとき同様、見送りはないと思ったが、光王と小さな人影があった。
「そなたが欲しがったものだ。
 驚かそうと思っていたが知っていたとはな」
 レクスィオーナは笑った。
 姉王が見せたがっていたのは、花精族の娘たちだったのか。
 どおりで人気の少ない丘にいたはずだ。
 歌声に気がつかなかったら、フュムビディロも立ち寄らなかっただろう。
 陽光を閉じこめたランタンを抱えた花精族の娘は震えていた。
「光がないと生きられない生態だ。
 庭を作ってやれ」
「よろしくお願いします」
 白い衣は花嫁衣装に似て。
 姉王の勘違いに気がついたが、もう遅い。
 王の言葉をひっくり返すことはできぬ。
 全ては正しくあらねばならない。
 記念に一輪、野の花がもらえれば良かった。
 花精族の娘が欲しかったわけではない。
 光の中にいてこそ輝く種族を闇の世界に連れて帰るのは罪悪感があった。
「ティティリーア」
 フュムビディロは名前を呼んだ。
 娘の強張っていた顔に笑みが滲む。
「なんぞ、顔見知りか。
 それ故か?
 弟君も隅にはおけぬな」
 レクスィオーナはカラカラと笑った。

   ◇◆◇◆◇

「闇の世界と聞いていましたから、真っ暗で何も見えないと思っていました。
 夜のように静かな場所なんですね」
 ティティリーアはささやくような声で言った。
「死者たちが眠る世界だ。
 姉上が治める地に比べれば暗いだろう」
 褒められ慣れていないせいか、言葉が冷たくなる。
「こうしてお顔が見られることができて嬉しいです」
 娘は無邪気に言った。
 二人はゆっくりと坂道を下っていく。
 やがて、大きな川に出る。
「ここより先は闇の領域。
 仲間たちの元に戻るか?
 まだ間に合う。
 姉上には私から言っておこう。
 お前たちは光が良く似合う」
 フュムビディロはティティリーアを見る。
「わたしが選んだ道です。
 知らない世界に行くことは怖いですが、陛下が一緒なら大丈夫です」
 娘はキッパリと言った。
 領地では見られない色の瞳に見つめ返されて、青年は視線を逸らした。
 淡い期待が生まれてくる。
「川を渡れば記憶が消される」
 フュムビディロは話の腰を折った。
「え?」
「人の子のみだがな。
 次の生を受けるのに過去は不要だ」
 フュムビディロは淡々と言った。
「びっくりしました。
 記憶がなくなったら、悲しいです」
「花精族はどうだろうな」
「驚かさないでください」
 ここでは見られない色の双眸がフュムビディロを見上げる。
「前例がない。
 姉上からいただいたランタンがあれば大丈夫だろう」
 フュムビディロは舟に乗る。
 手を差し伸べる。
 ティティリーアは不安げに、その手を取った。
 そういえば、誰かのために手を差し伸ばすのはいつぶりだろうか。
 長いことなかったような気がする。
 静かに船頭は櫂をこぐ。
 乳白の靄をかき分けて舟は進む。
 ランタンの光がぼんやりと輝く。
 無垢な娘の輪郭を映し出す。
 太陽のような髪も、空のような瞳も縁どられて美しかった。
 頭上で宝冠のように戴かれた花が宝石よりも綺麗だった。
 よほど怖いのだろう。
 ティティリーアはランタンを見つめ続けている。
 陽光を閉じこめたそれは、あたたかそうだった。
 フュムビディロは、脅かせすぎたと思い握った手に力をこめる。
「大丈夫です」
 緊張しているのか声が震えていた。
「そうは見えぬが、な」
 フュムビディロは微苦笑する。
 舟が止まった。
 漆黒の居城が見えた。
「ついたな。
 記憶は残っているか?」
 フュムビディロは立ち上がる。
 それに釣られるようにティティリーアも立ち上がる。
「陛下が優しかったことを覚えていられて良かったです」
 善良な娘は言う。
 手を繋いだまま、二人は舟を降りた。
「大きなお城ですね。
 独りで住んでいるのですか?」
 薄ぼんやりとした靄がたつ道を歩く。
 ランタンの明るさが目立つ。
「臣下もいる。
 同じ年頃の召使をつけよう」
「自分のことは自分でできます」
「話し相手が欲しくないのか?」
「陛下がいれば充分です」
 繋いだままの手からぬくもりが伝わってくる。
 娘が頼れる相手はいないのだ。
 仲間から離れ、光王の庇護から抜け出した。
 独りきりは心細いだろう。
 そう考えてのことだった。
「こう見えても忙しい身の上だ。
 かまってやれないことの方が多いだろう。
 それに、こちらの世界のルールを学ぶ必要がある。
 全てを教えられればいいのだがな」
 姉王の誤解の産物は、悪くなかった。
 一緒にいて、窮屈さも、退屈さも感じさせない。
「わかりました。
 早く慣れるようにしますね」
 想像したよりも明るい声が言った。

   ◇◆◇◆◇

 闇王の居城はお目出度ムードに包まれた。
 それもそうだ。
 美しい花嫁を抱えてやってきたのだ。
 天上の世界を知る者は、光そのもののだと思った。
 知らぬ者は、憧れた。
 フュムビディロがティティリーアを抱きかかえて寝室のドアを開けたのは夜半を過ぎていた。
 広い寝台の上に優しく下ろす。
 花冠から香水のような甘い芳香がした。
「横たわらないのか?」
 フュムビディロは問うた。
 枕に寄りかかるように座る娘は微笑む。
「大地に横たわって咲く花がありますか?」
「道理だな」
 この二日、色んなことがありすぎた。
 睡魔が訪れてきた。
「名で呼んでくれないか?」
 フュムビディロは言った。
 もう誰も呼んでくれない名前だ。
 呼ばれなければ、価値がないような気がする。
「陛下を呼び捨てにできません」
「二人きりの時だけで良い。
 呼びづらいならフュムでいい」
 そう呼んでくれた人たちは想い出になりつつある。
「では、わたしのことティーと呼んでくれませんか?
 交換条件です」
 娘は青年の傍に寄る。
「ティー」
 紫水晶の瞳がティティリーアをとらえる。
「はい、フュム陛下」
「陛下はいらない」
「我が儘ですね。
 フュム様。
 これ以上は譲れません」
「ティーは頑固だな」
 フュムビディロは失笑した。
 宝石よりも美しい空色の目が大きく開かれる。
「おかしなことを言ったか?」
 眠りの海に招かれながら尋ねた。
「笑顔を見られるなんて果報者ですね。
 独り占めです」
 嬉しそうにティティリーアは言った。
 自覚はなかったが笑っていたのか。
 その指摘が恥ずかしかったので、フュムビディロは話題を変えた。
「歌を唄ってくれないか?
 最初に聴いた曲がいい」
 二人が出会うきっかけになった曲だ。
 深い眠りにつけるだろう。
「あれは歌っていうほどのものではないです」
「無理ならいい」
 何となく聴きたかっただけだ。
 無理強いはしたくない。
「気に入っていただけたのでしたら、何度でも歌います」
 花冠がほろほろと光を零す。
 透明な歌声に包まれて、幸福というのはこういうことを言うのだろうか、と思った。
 それはとてもとても美しい光景だった。

   ◇◆◇◆◇

 ランタンだけを持って嫁入りした娘に、一番に与えられたのが庭園だった。
 死者の邪魔にならぬように、居城の中庭に光を導いた。
 まるで手向けのように、花は次々と咲いた。
 花嫁はお気に入りのようで日がな一日、そこで歌を唄っていた。
 窓を開ければ、執務室にもその透明な声が届く。
 作業になりがちな書類整理もはかどる。
 止まっていた時間がゆったりと流れ始めたような気がした。
 フュムビディロにとっては幸いなことだった。
 このまま娘と共に過ごしたい。
 そんな欲求が芽生え始めた。
 あくまでもフュムビディロの一方的な思いだ。
 花精族と過ごす時間が伸びれば伸びるほど不思議だと感じる。
 光を浴びて、水だけを飲む。
 花冠から光を零す。
 植物のような生態だった。
 少し変わっているぐらいが死者の世界にはふさわしいのかもしれない。
 最後の一枚に署名をする。
 今日までの分の仕事はお終いだ。
 歌が途切れた。
 薄暗い夜が来る。
 その束の間の時間だ。
 執務室にティティリーアが顔を出す。
 ランタンをぎゅっと抱きしめて。
 書類整理が終わったら、お茶を飲む。
 ティティリーアには汲みたての水だったが。
 変化に乏しい世界だと思っていたけれども娘の目から見ると違うようだった。
 それを聞くのが毎日の楽しみだった。
 だが、ふと考えてしまうことがあった。
「皆のとこへ帰るか?
 姉上には私の方から言えば角が立たないだろう」
 フュムビディロは、切り出した。
 わだかまっていた考えだった。
 ランタンを抱えた娘は首を横に振る。
「陛下のお傍においてください」
「独りでは寂しいだろう」
 小さな手が青年の手を取る。
 陽光を浴びたようにあたたかい。
「陛下は本当に優しい方ですね。
 初めて会った時からずっと変わりません。
 だから、わたしは選んだんです」
 ティティリーアは天上の空の色の瞳でフュムビディロを見つめる。
「選んだ?」
「闇の領域に入る前にも言いました。
 わたしが選んだ道です」
 娘ははっきりとした口調で言う。
「実は宴会が終わった時、光王陛下が花精族の娘を集めたんです。
 黒い野獣の共に闇の世界に行く者はいないのか、と」
「それでは志願する者もいまい」
 フュムビディロはためいきをついた。
 姉王の真っ直ぐとした気性は好ましいが、この場合逆効果になっただろう。
「それが一人だけいたんです」
 ティティリーアは言葉を続ける。
「まさか」
「わたしは陛下と言葉を交わすことができました。
 優しく、誠実なお方の傍なら咲き続けられるような気がしたんです。
 仲間と一緒にいるよりも、陛下のお傍にいることの方を選んだんです」
 ティティリーアは言った。
 純粋な好意を向けられて青年の心臓は跳ねた。
「そうか」
 フュムビディロは震えそうになる声を抑える。
「はい」
 ティティリーアは笑顔で頷く。
 宝石よりもなお輝く生命の煌めきだった。
 フュムビディロの心がざわめく。
 小さな手を握り返そうとしたが手は離された。
 残念に思っていると
「そういえば、お庭に陛下の瞳の色と同じ色の花が咲いたんですよ」
 ティティリーアが早口で告げる。
 花冠から甘い芳香があふれ、フュムビディロの鼻をくすぐった。
「たくさん花が咲いていますが、ようやく見つけました。
 とても可愛らしい花なんですよ」
 楽し気な言葉に誘われて庭園に向かう。
 夜になる直前。
 庭園の花たちが眠りにつく前。
 ティティリーアが指さす。
 気をつけていなければ見落としてしまうような小さな花が咲いていた。
 紫の花弁は緑の下草の中、隠れるよう存在していた。
「これが私の瞳と同じ色に見えるのか」
 生命あるものにしかないあたたかさがそこにはあった。
 心を和ませるものと同じと言われるのは良い気分だった。
 ティティリーアは目を丸くしてから、細める。
「どうした?」
「ふふ、気づかれていないのですね。
 今、微笑んでいらっしゃいます」
 ティティリーアの手がフュムビディロの頬にふれる。
「いつもは険しい顔をしていらっしゃるから。
 わたしの前では笑っていてくださいね」
「難しい注文だな」
「陛下の笑顔はとても優しいのです。
 心があたたまります」
「お前の笑顔の方が日差しのようであたたかい」
 小さな手に自分の手を重ねる。
 じんわりと体温が溶けていくのが分かる。
「お上手ですわ。
 黒い野獣と恐れられる方とは思えません」
 ティティリーアは、うっとりと目を半ば伏せる。
 遠慮がちに夜闇がやってきた。
「お前の目で観たものが、お前の真実になる」
「優しい方ですわ」
 花冠から光が零れる。
 それが下草やランタンをぼんやりと照らす。
 二人は星が瞬く時間まで、穏やかにすごした。
 出会えて良かった、とフュムビディロは運命を司る女人たちに感謝した。
 心の奥底から、生まれてくる感情に、どのような名前をつけようか。
 独りでいることのない安寧の中、ティティリーアも同じ気持ちだと嬉しいと思った。


 闇王の傍らに咲く花は死者たちにも安らぎをもたらした。
 二人は似合いの夫婦だと闇の住人たちはささやきあう。
 それが耳に入るのは、そう遠くない未来のことだった。
 聞いた闇王と光の花が対照的な表情をしたことを知る者はわずかだった。
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