『人の影』後書き

 ここまで『人の影』をお読みいただきありがとうございます。

 実験的な小説ではありましたが、比較的乙女向けのラノベ的なエンディングに《shi》はたどりつけたのではないか、と思います。
 連載当初は『ハッピーエンド』は確約ではない、と言いましたが、それなりのエンディングにたどりついたはずです。
 何故、このような書き方になるかと言うと、blogでもtwitterでも語ったように、『人生に終幕はない』ないということです。
 《shi》と《黄昏》の曖昧な関係は決着がつきましたが、これから先の二人の現実世界での人生が待っています。

 twitterで零したように、《shi》の救済のために《黄昏》がいたわけでありません。作者の力不足で描写不足でしたが、真逆です。
 《黄昏》の方が、二人の曖昧な関係性にしがみついていたのです。
 その辺りは『Twilight』を参照していただけると助かります。
 Twilightを直訳すれば黄昏です。
 英語圏ではあまり良い意味がありません。
 「不明瞭な状態」、「終わりに向かっていく」という意味合いの方が大きいです。

 第一話のタイトルであるようにBUMP OF CHICKEN「天体観測」の歌詞がわからないと、意味が通じない作品ではあります。
 そして、この曲が発表されてから、だいぶ歳月が経ち、明確な答えが出されました。
 《黄昏》は二度と、午前二時に「天体観測」をしないでしょう。
 それが『大人になる』ということです。

 そして、また最終話のタイトルに使われた『The Gift』は、イギリス出身のグループのBlueの「THE GIFT」に由来します。
 こちらもまた、男性が天使に出会って、ギフトは受け取るよりもより多く与えることによって手に入るものだ、と気がつく歌詞になっています。
 
 《shi》視点なのでギフトは複数の意味で使われています。
 贈り物、プレゼントという意味もあります。
 ギフテッド(天才児)の意味もあります。
 世界のありとあらゆる事象(試練)は神様が用意したギフトという意味もあります。

 《shi》の疾患について。
 最終話『The Gift』で《shi》視点で語られるように、『私が気軽に病名を明かせないように、あまりにも有名すぎて嫌悪される病気なのだ。しかもその罹患率は、血縁関係ではなくても100人に1人だ。』の辺りを検索すれば出てくる有名な精神的な病気にかかっています。
 現代医学では、完治するとは言われていますが、《shi》は投薬治療を続けなければ、社会的な生活を送れないほど重たいものです。
 引き金になったのは実の父親の死ですが、あまりにも早い段階で発病をしたために、減薬はできても、断薬はできないほどのものです。
 『人の影』は、この疾患にかかっている人たちについて、揶揄するようなものではありません。
 《shi》の個性であり、性格の一部です。

 『人の影』のURLがshadowであるように、これは『影』の英語ではありますが、ユング心理学のシャドー(影)という意味もありました。
 また紹介文にあるように『仮面《ペルソナ》』にも、役者が身につける仮面であり、外面的要素だけを見せるという心理学的な意味でのペルソナでした。

 哲学的な話、心理学的な話、宗教的な話が入り混じった本作ではありましたが、これ以上の説明をするのは読み手の楽しみを奪ってしまうので、わかりづらい単語がありましたら、是非ともネットで検索してみてください。
 新しい窓が開かれると思います。

 本日の更新にこだわったのはジューンブライドということもありましたが、6月の第1日曜日が『プロポーズの日』という記念日に制定されているためです。
 2024年の6月2日(日)は、まさしく6月の第1日曜日です。

 ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
 二人の物語は別の形で用意しているので、準備ができたら是非とも目を通していただけると幸いです。

 並木空

BGM
BUMP OF CHICKEN『天体観測』
https://www.youtube.com/watch?v=j7CDb610Bg0
Blue - The Gift (20th Anniversary)
https://www.youtube.com/watch?v=vRdnSfgmneE

どちらもYouTube内のOfficial(公式)MVなのでご安心ください。


 感想などありましたらいただけると嬉しく思います。




素材【web*citron
←Back Table of contents↑ 並木空バインダ→