The Gift 09

「《黄昏》は手に入ったのか?」
 欲しいものがあっても自分自身の力で手に入れるだろう。それだけの実力が《黄昏》にはあった。オンラインでもあってもリアルでもそうであった。そう思っていた。探すようなものではなかった、と思っていた。
 まるで《黄昏》はずっと待っていたような雰囲気だった。
「ああ、ようやく手に入った。
 今、ここにある」
 《黄昏》は私の手をそっと握る。
「では、私は幸せそうに笑っていないといけないな」
 私は最後に見つけることができた、一番素敵なものではなくてはならない。
 《黄昏》の手を握り返した。できるだけ私の願いが伝わるように。
 自分よりも他人の幸福を願う、それが愛しているということならば、私にとって《黄昏》がそうだ。
 それは不変なものだと神の御前で誓ってもかまわない。
 ありったけの想いを込めて、私は戸籍上の名前を呼んだ。
 これが今の私にできる精一杯のことだった。
 公園のように二人きりではない。電車の中だ。それなりに人目でだってある。
 《黄昏》は驚いたように目を見開いた。それから、かみしめるように静かに笑った。
 電車は定刻通り駅を通過していく。電光掲示板がそれを知らせる。
 時が流れていくことを教える。
 私は1/fゆらぎに身を任せながら《黄昏》のことを考える。
 きっと私は《黄昏》の戸籍上の名前のように切っても切れない縁があるのだろう。
 私は《黄昏》のために生まれてきたのかもしれない。
 この世のすべての神様が与えたギフトに立ち向かえるだけの。
 神様が《黄昏》にギフトを与えすぎたために。
 そのために孤独になってしまった《黄昏》を癒さなければならない。
 寂しい、と言えなかった幼少の《黄昏》のために。
 私はきちんと『愛』を伝えなけれければならない。『愛は受け取るよりも、より多く与えるもの』というのなら。今までだってたくさん受け取ってきたのだから。
 私は生まれて初めて《黄昏》の誕生日を祝えたのかもしれない。私自身が《黄昏》の妹をやめて、自立しようと思い決断した。二人の関係性は変わってしまった。血の繋がらない兄妹の関係は終わったのだ。それでもまだ、バロック真珠のように歪な関係なのかもしれない。でも二つとはない美しいものだ。きっと私自身が《黄昏》の誕生日プレゼントだったのだ。それも遠回りになるぐらいに、待ち望んでいたくせに本人すら諦めかけていたぐらいの、長い時間のギフトだ。私が白い大きな箱をもらったのは18歳の時だった。ずっと待たせ続けていたのだ。だから、これからはたとえ困難だろうと逃げ回らずに立ち向かっていこうと思う。

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