10.足音



 とーこはいつでも宗ちゃんを驚かせようと努力している。
 なぜなら、宗ちゃんはいつもとーこを驚かせてくれるからだ。
 同じ年の宗ちゃんは頭が良くて、強くて、真面目で、折り目正しくて、とにかく立派なのだ。
 宗ちゃんは、とーこの方がすごい。と、どうしてか言ってくれるけど。
 とーこは、宗ちゃんの方がすごい! と思う。
 その宗ちゃんを驚かせようと、とーこはするのだけれども。
 いつも、上手く行かない。
 どうしてなのか、とーこにはわからない。
 早与子さんは、とーこが「小さいからよ」と言う。
 でもそれなら、とーこが宗ちゃんより大きくなることはムリなので、これから先もとーこは宗ちゃんを驚かせることはできない。
 それはとても悲しい。
 とーこは、宗ちゃんがとーこと同じ気持ちになってくれると嬉しいのに。
 それができないのが、とてもとても悲しい。
 心の空が涙でいっぱいになっちゃうぐらいに。
 でも、それじゃあ、とーこは困っちゃうので、時おり、心の空から涙を小さなコップですくうことにしてる。
 小さなコップは、いつもはないけれど、たまに空の隣に現れる。
 そのときは、とーこは小さなコップを使うことに決めているのだ。
 とにかく、とーこは宗ちゃんを驚かすためにがんばってるのだ。


 とーこが庭を伝い歩いていくと、宗ちゃんと必ず目が合ってしまう。
 驚かせることができない。
「どうして、とーこが来ることがわかるの?」
 宗ちゃんは、武道のタツジンだから?
 悟っちゃうの?
 とーこにはフシギだった。
 宗ちゃんの目がフッて、優しくなる。
 その瞬間、よくわからないけど、とーこは最近、驚いてしまう。
 前はヘイキだったのに。
「足音がする」
 宗ちゃんは言った。
 ……ズルイ。
 宗ちゃんは、超能力者だったんだ。
 とーこは忍び足で、来ているのに。
 そう言うと、宗ちゃんは驚いたようにとーこを見る。
「燈子は、オレンジ色をしている。
 火みたいに、はぜる。
 だから、たまに音がする」
 宗ちゃんは微笑む。
 とーこはいまいち納得できなかったけど、宗ちゃんのその顔が好きなので、それ以上言うのはやめた。
 もったいないからだ。
「とーこがオレンジ色なら、宗ちゃんは空だね。
 宗ちゃんの空、毎日とーこの色で染めてあげるよ」
 とーこは言った。
 宗ちゃんは、とーこの頭をなでてくれた。
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