4.五月雨



 とうとう、禁止令が出た。
 村上家全体に及ぶものではなかった。
 小さな「燈子」のみに課せられたのだ。
 燈子は泣き腫らした目で、その紙を差し出した。
 綺麗な透かしが入った便箋に、涙でにじんだ文字が並んでいた。
 口で伝えたら、また泣いてしまうから、と。
 宗一郎は静かにそれを受け取り、ガラス戸を締めた。
 ぴったりと、空気すら立ち入りを拒むように。

 燈子の両親は、外者だ。
 村上の血を引くが、外で育った。
 二人が結婚したのも、自由意志であり、子どもをなしたのも自由意志であった。
 だから、あの両親から見れば、この閉鎖的な環境は心を蝕ませるには充分だった。

 宗一郎は、燈子からもらった手紙の文字を追う。
 簡潔な名文だ。
 一度、読めば覚えてしまう。
 それでも、宗一郎はくりかえし文字を読み、ためいきをつくと同時に、文机の引き出しにしまった。

 五月雨のように、心が乱れる。
 悲しいよりも、寂しいよりも、ただ……辛い。
 宗一郎は、文机に突っ伏した。






 これからは、会えません。
           燈子
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