第一話 金盞花(キンセンカ)
 少し昔語りをしよう。

 あるところに強欲な王さまがいた。
 正妃の子どもであったが、第二子の王さまは本来玉座につけないはずだった。
 王さまにとって幸運なことに、四つ上の第一王子は妾妃腹で、あまり丈夫な体ではなかった。
 国土に蔓延した流行の病で儚くなってしまった。
 第二王子だった王さまは父と兄をいっぺんに亡くしてしまった。
 母である正妃の父が宰相であったため、国内はさほど混乱せずに王さまは玉座についた。
 兄王子の婚約者であった姫君を正妃に定めた。
 十六になったばかりの姫君はキンセンカのように美しく、優しい乙女であった。
 姫君は婚約者を失い、泣き暮れていた。
 それが王さまには気に食わなかった。
 なかなか心を開かない姫君に苛立ちながら、王さまはプレゼント攻撃をした。
 姫君が花に目を留めると、立派な庭園を造った。気候に合わない花も楽しめるように温室まで造った。
 姫君が音楽が好きだと知ると、国中の音楽家を集めて楽団を作った。
 王さまは政務の合間に何通もの恋文を書いた。
 そんな王さまの情熱にほだされたのか。それとも諦めがついたのか姫君はようやく婚約に応じる気になった。
 王さまは大変、喜んだ。
 父王と兄王子の喪が明ける一年後に式を挙げることが、正式に決まったのだった。
 この婚姻に姫君は一つだけ条件をつけた。
 それは姫君の一族から、侍女を一人を連れてくるというものだった。
 姫君の一族は巫女の血が流れていたから、その侍女もよく占いをした。
 王さまは一にも二もなく条件を呑んだ。
 それから時は流れて十二年。
 王さまは正妃として迎えた姫君だけを寵愛したのに、子どもに恵まれなかった。
 流石の王さまも焦った。
 いくら金銀財宝があっても、受け継ぐ相手がいなければ意味がない。
 王さまは姫君付きの侍女に一つの占をさせた。
 すると侍女は不吉な占いを下した。
 姫君の助命がなければ斬って捨てられるようなないようだった。

『月が日を食む日に、王子は永遠の眠りにつくだろう。
 それを避けるためには黒き娘が得る必要がある。
 黒き娘が摘んだ想い花を手に入れれば、王子は成人を迎え王家は繁栄するだろう』

 それからしばらくして姫君は身ごもった。
 待望の王子だった。
 王さまは願いをこめて翔陽(しょうよう)という名を授けた。
 十月十日を待たずに生まれてきた王子のため、王さまはありとあらゆる力を使った。
 けれども王子は病がちで、占の通り成人の儀まで持つようには思えなかった。
 強欲な王さまは黒き娘を捜し求めた。

 それが君だよ、真夜(まよ)。
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