#04

 長期休暇ってつまんない。
 あたしは毎日がお休みみたいなもんだから。
 することがなくなっちゃうんだよね。
 飽きちゃうし。

 学校のない日は、微妙だった。
 家にいても良いことなし。
 お母さんに怒られるし、お父さんは何も言わない。
 そう言えば。

 彼氏がいた頃はそんなにヒマじゃなかったんだけど。
 カズがちょくちょく誘ってくれるけど、それだって毎日じゃない。
 ヒマで死んじゃいそうだった。
 女友達も付き合い悪い。
 男の方が大切とか言うしね。
 フツーだけど。
 いわゆるトモダチも、セキやカズと遊ぶようになってからは、減ったし。
 もしかして二人は、蚊取り線香みたいなものなのかな?

 毎日、買い物できるわけじゃなし。
 お金がない日とかあるし。
 そんなときは、だらだらしてるしかないんだけど。
 それがずーっと続くお休みって好きじゃなかった。

 とりあえず休み明けだった。
 カズと食堂で、なんかの話をしてたとき。
 ドラマとか、新しくできた店とか。
 そんな話をしてた。
 付き合いの良いカズと話すのは嫌いじゃなかった。
 たまに勉強とか見てもらってたし。

***

「えー、ここ、わかんないだけど?」
「またまた。
 授業でやったと思うんだけど」
「ほとんど寝てた」
「うーん。
 ノート持込可だったけ。
 あの教授」

 カズはファイルの中のルーズリーフをパラパラめくる。

「OKみたいだよ。
 ラッキー♪
 これ、写していくと良いよ」
「全部、写すの?」
「赤点取ったら、来年も同じ講義受けることになっちゃうよー。
 アユちゃんなら、楽勝でしょう」
「メンドイ」
「気持ちはわかるけどね~。
 じゃあ、これ持ってく?」
「いいの?」
「アユちゃん、可愛いから特別だよ。
 オレはほとんど覚えてるし」

 次の瞬間、カズの笑顔が崩れた。
 カズの後頭部がコツンと鳴った。
 あんまり痛い感じはしなかったけど。
 薄いテキストだったしね。

「俺のノートはどうなる?」

 あたしは目をパチパチとしちゃった。
 マスカラしてなきゃ、目をこすっていたと思う。
 間違いなくセキだったんだけど、めちゃくちゃ違和感があった。
 スーツじゃなかったから。
 カズとあんまり変わらないカッコしてた。

「あれ?
 珍しいじゃん」
「まあな。
 こっちじゃないとしまんないだろ。これ」

 セキは自分の耳たぶをさわる。
 そこにはシルバーのピアスがあった。
 飾り気のないヤツで、言われなきゃ気がつかないような。
 小さなピアスだ。

「今日から、ずっとすんの?」
「就活始まったら、戻すかもな」
「あ、ほれ。
 これ欠席してた分のコピー」
「サンキュ。
 あとで飯おごるよ」
「それよか、欲しい武器があんだけど」
「マジかよ」
「マジマジ~。
 ソロじゃ手に入りません」
「日付変わる頃なら、つきあえっけど?」
「十分、十分」

 カズとセキは、あたしを置いてきぼりにして会話する。
 男同士の話っていうの?
 たまにされるんだよね。
 付き合いの長さだとは思うんだけど。
 
「セキ、どうしちゃったの?」
「おそよー。直井サン。
 心境の変化ってヤツだよ」
「ありえない」
「まあ、認めてもらわなくても困んないし」

 セキは、カズの隣の椅子を引いて座る。
 そのカッコが似合わないってことはなかった。
 スーツ着ていた頃に比べたら、目立たなくはなったけど。
 変な感じしてた。

 あたしの知らないところで、変わっちゃうのってよくあることだけど。
 バカだから気がつかないだけで、少しずつ変わっていたのかもしれないし。
 休み明けに髪の色変わってるのとか、ファッションが変わるのって、良くあることだし。
 カズだって、休み前はアッシュ系金髪だったのに、今はカッパーって感じの色に落ち着いてるし。

 だけど、セキはそんなことしないと思ってた。
 世の中には不変なものはない、って授業で習ったけど、妙にしんみりとした気分になった。
 ショギョームジョーって感じ。

 セキの変化は、これだけじゃなかった。
 それを知るのは、テスト明け。
 一月後だった。

***

 かったるい試験も終わって、レポートなんかも提出した。
 カズのおかげで、何とかなりそうだった。
 成績、郵送されちゃうし。
 それで親が何か言うことってほとんどないけど。
 悪い点だと、あんまり良い気分じゃない。
 初めから、ちゃんと勉強すればいいんだけど、そんなことあたしにはできないし。

 その日は、3人で駅前でご飯食べていた。
 来年のどの講義を取れば楽になる、とか。
 学生らしいこと話していた。

 で、セキの携帯電話が鳴った。

 セキは軽く手を上げて、謝るような仕草で、店の外へ行った。
 戻ってきたのは3分ぐらい? 後。
 計ってたわけじゃないから、正確じゃないけど。

「セキのケータイって鳴るんだね」

 あたしは言った。

「鳴んなかったら、壊れてるでしょ」

 カズは笑った。

「初めて聞いたんだけど?」
「マナーモードにしてるから、とか?」
「ケータイに出る、セキを見たことがないよ」
「お、じゃあ、初だね。
 オメデトー」
「カノジョ?」
「気になる?」
「カズは気にならないの?」
「うーん。
 こんぐらいは」

 カズは右手と左手で30センチぐらいの距離を示す。
 大きいんだか、小さいんだか、わかりづらい。

「どんなコだろ」
「女とは限んないんじゃない?
 ほら、親とか」
「あ、セキならありえそー。
 親コンなんでしょ」
「絵に描いたような家だよ。
 お父さん真面目な会社員で、ちょっと情にもろいところもあってさ。
 お母さんは料理上手で、ケーキとか焼いちゃうんだよ。
 で、一人っ子だから」
「仲良いね」
「え? あ、セキと?
 まあね。
 大学まで一緒だと、色々と」
「馴れ初めとかあるの?」
「いや、けっこうフツー。
 同じクラスになって、それで」

 とか話しているうちに、セキが戻ってきた。

「電話なんて珍しいじゃん?
 誰から?」

 カズがきいてくれた。
 ケータイ片手に戻ってきたセキは、複雑な顔した。

「妹……かな」

 セキは答えた。

「それなんてエロゲ?」
「外で使うなよ。
 ここは掲示板じゃねー」

 カズの言葉にセキは顔をしかめた。

「いつの間に、妹なんて生まれたんだ?」
「いや。生まれてないし」
「あの小父さんが隠し子かあ。
 意外な感じ~」
「勝手に他人の家の家庭事情を複雑にすんなよ」
「え、じゃあ、小母さんが?」
「それ、さらに複雑になってんだろ」
「だって、妹なんていきなり増えないじゃん。
 誕生日プレゼントとか、クリスマスプレゼントでいきなり~。なんて、ギャルゲーでもイマドキ見ないパターンじゃね?」
「家に帰ったら、いきなり増えてたんだよ。
 遠縁だけど、親戚の子だってさ」
「マジで義理の妹ちゃんなわけかぁ。
 ウラヤマシス。
 いくつ?」

「で、その妹の電話だったんだ」

 あたしはきいた。

「そういうこと」

 セキは言った。
 反論は受け付けないって顔してた。
 それがあたしはムカついたけどね。

 この日以来。
 あたしたちは3人で何かするのが減った。
 セキが忙しくなったからだ。
 妹っていうコに、セキを取られちゃったみたいで、あたしは面白くなかった。
 セキは秘密主義だから、妹の話はほとんどしなかった。

 定期的に鳴るケータイにイライラすることが増えた。
 何かしているときにケータイが鳴るのは、当たり前だったんだけど。
 カズのケータイもたまに鳴ったし。
 で、カズが返事を返したりするのも、ちゃんとスルーできていた。
 今までしなかったから、ムカついたのかも。

 家族には勝てないってことらしい。
 あたしがセキと家族になるのは、ありえなかったし。
 トモダチだから諦めなきゃいけなかったし。
 その分、カズがかまってくれたけど……。

 まあ、それでも割りと3人でいたっぽい。
 やっぱり、セキと付き合っている思われてたしね。

←Back  Table of contents↑ Next→