後書き

固有名詞(人名、地名)

黄垣筐 こう・えんきょう
林圭籃 りん・けいらん

假睡 すいか
応龍江 おうりゅうこう

発音
 読み方のピンインと意味。
 カタカナは取りあえずの読みなので、あくまで目安です。
 哥哥はカタカナ発音しづらいので、読みやすい読みで呼んでください。

哥哥 (ge1ge) ガーガー、ググ、ケーケー  →お兄さん
妹妹 (mei4mei) メイメイ  →妹
媽媽 (ma1ma) ママ  →お母さん
爺爺 (ye2ye) イェイェ  →(父方の)お爺ちゃん
老爺 (lao3ye2) ラオイェ  →旦那さま
老婆 (lao3po2) ラオポー  →お前、ハニー
姨母 (yi2mu3) イームゥ  →(母方の)叔母さん
姑娘(gu1niang2)クーニャン  →娘さん、お嬢さん

星龍井戸譚(せいりゅういどたん)』こと『井戸譚』をお読みいただきありがとうございます!
 前回と違って、捻りなしの投稿でした。
 正答率100%になるかなぁと思っていたんですが、どうも私こと並木空を良く知り、複数の作品を読んでいる人は、引っかかったようです。
 共同管理人の紅和花が、推理ミスをしてくれました(笑)

 中華ものというと『鳥たちの見た夢』と『氷の中の花』の二作品を書いているのですが、この二作品は両極端なところがありまして、登場人物の名前の書き方にも差があったので、どちらを参考にするのかで、また推理がややこしくなったのではないか、と想像しています。
 主力連載の『鳥夢』は登場人物名をカタカナ表記しています。どうしても中華ものは漢字が多くなり、似たような漢字の名前が増えてしまうので、救済処置だったりします。
 それを知っている和花は、登場人物が漢字名だったのに引っかかったようです。
 逆に『氷花』は美麗美文調に憧れて、思いっきり古典調に書いたので漢字配合量が多いのでした。力いっぱいに書くとこんな感じになりますね。
 『井戸譚』はこの二つの中間って感じでした。

 ルビがなくってスミマセン。
 私は登場人物の名称なんてこだわらないので、あの漢字であればかまわなかったんですが、“読めない”というのを気にする方が本当に多くってビックリしました。
 『井戸譚』は文字数が規定のギリギリで、改行と読点を削ってようやく収めた話なのです。
 ()で名前の読みを書こうにも、それをやったら間違いなく文字数オーバーという事情がありました。
 本当は小名、小字(幼い頃の愛称、家族、従兄弟間では呼び合う。大人になると呼ばれなくなる名前)も決めようと思ったんですが、それすら許さないという文字数でした(汗)
 補助として入れた()内の言葉も悩みました。
 姑娘がお嬢さんで“嬢”なのは良いんですが、老婆というシーンがあるんですが……忠実に訳すと“ハニー”(もしくは熟年夫婦の“お前”)ぐらい甘くて、気心の知れた感じの意味なのです。
 中華でいきなり“ハニー”とか“ダーリン”って入ったら萎えちゃうかなって……考えたので、苦しい訳をつけました。
 媽媽も“お母さん”より“ママ”って感じに近いそうです。

 あと「***」での場転。基本的に「◇◆◇◆◇」で場転をするのですが「人の影」シリーズの「アユ」のときは「***」で場転をしていたりします。ちなみに《shi》は「+++」。節操なしなんですよね、場転の記号に関しては(笑)

 睫毛に関して言えば、作品ごとに漢字を開いたり、開かなかったり。『鳥夢』では開きがちで、『宗一郎と燈子の45日間』では開かずに、という感じで、視点人物に誰を据えるかで、漢字の量を変えたりしています。


 この話の書き始めは、「星が入った籠」というメルヘンな発想からでした。
 蛍の入った籠の類似品です。
 「籠」という字は「竹」と「龍」に分けることができます。
 竹の籠に閉じ込められている「龍」はどんなものなのだろうと考えました。
 この時点で、中華風、和風、現代ファンタジーに絞られてきました。
 「竹」は木気。木気が封じるのは土気。
 土気の聖獣は麒麟と黄龍です。
 というわけで、木気に封じられているのは黄龍だとなりました。
 風水、陰陽五行というわけで、舞台は古い時代のほうがしっくり来るだろう。
 陰陽師が大活躍な平安絵巻を原稿用紙20枚で書く自信がなかったので、中華風になりました。
 なので、『星籠』は四神をあしらった中央が黄金の石がはまった『銅鏡』になりました。
 水気を生む金気の材質です。だから作中で、井戸に落としました。
 子どもとも大人ともつかない少年少女が、井戸に銅鏡を叩き落す、シーンが頭に浮かび上がって、書き始めました〜。
 陰陽五行をベースに話を掘り下げていきました。

 ちなみに假睡を中心とする地方では名門と呼ばれる家が五つあって、五行と関係している姓を名乗っています(本作では二つしか出ていませんが)。その五つのグループ内でかなり濃い血族結婚をくりかえしたりしています。
 平行従兄妹なのに黄垣筐が後継ぎな理由とか、語りだすとめちゃくちゃ長くなるので割愛です。
 午前は陽の気、男性を意味する。午後は陰の気、女性を意味します。
 なので、この二人は見事な太極(調和)なのです。

 双子のように七つまで育ったというのは「男女七歳にして席を同じゅうせず」を意識してのことです。
 孔子の言葉です。
 席はムシロ、ゴザの類で、ソファーや布団に意味が近いと思います。
 三省堂さんのサイトがわかりやすいと思うので、URLをご紹介です。
 http://test.sanseido.net/Main/TodayWords/Detail.aspx?twwrc=-9223372036854773613

 固有名詞ですが、わざわざ漢字にしたように意味がありました。

 黄→土属性、土属性の色。
 垣→土属性、意味は垣根。中国の星宿(星座)三垣二十八宿の「垣」。
 筐→木属性、意味は箱。

 林→木属性
 圭→土属性、意味は土を量る。
 籃→木属性、意味は箱。


 従兄の笥均も(木属性)箱で、(土属性)土をならす。
 というわけで、木気の「箱」で土気を縛り上げている感じの名前になっていました。
 
 街の名前は假睡。狸寝入りをする、うたた寝をするという意味の中国語です。
 黄龍が伏せる大地にふさわしい名前で、実際の地名では存在しないものを探してきました。
 応龍江は、陰陽和合した龍が応龍。黄龍にもつながる言葉です。この川の名前も実在しません。……グーグル先生ではかかりませんでした。
 天上の帰る(星になる)龍を閉じ込めておく鍵ということで『星籠』でした。


 話の流れというか歴史観です。

 黄帝が蚩尤と大戦争をしました。
 当然、配下の黄龍は黄帝と一緒に地上で戦いました。
 ところが戦が終わって平和になってみれば、力を使い果たしてしまった黄龍は天界へ帰れなくなってしまいました。


 ……と、ここまでは中国の実際の伝承です。で、この先は捏造です。

 地に失墜した黄龍を埋めるべく、聖獣たちは中央に麒麟を置きました。
 黄龍には面白くありません。いつか天界に帰って見せると誓いました。
 天上に返り咲くには、五行の整った場所で、エネルギーを充電するしかありません。
 假睡の土地は風水的な見地で、完璧でした。
 黄龍はここでしばらく休むことにしました。
 とはいえ、ここで暮らしてきた人たちには迷惑です。
 巨大な龍が街の中央を占拠しているわけなんですから。
 日常生活にも支障が出ます。
 逆鱗なんかに、間違ってふれちゃったら、街一つ分ぐらい消し飛んでしまいます。
 ほとほと困っていたときに黄帝がやってきて、後始末をしてくれました。
 黄龍を街の中央に封じてくれたのです。その上で、黄龍が暴れまわれないように街を整備してくれました。
 碁盤の目のような道筋に、四方を四神が守ります。
 街自体が黄龍を封印する道具になっているのです。
 黄帝は街の代表者に言いました。
“やがて黄龍が力を蓄えて天に帰る日がやってくるだろう。
 あまりに巨大な力だ。地にあっては災いになるだけだ。
 だからその日が来たら黄龍の封印を解いて欲しい”と。
 その後、黄龍が封じられた場所には井戸が作られました。その水を飲むと、延命できるという伝説の井戸です。
 黄帝の言っていた合図とは、井戸が枯れることでした。
 強すぎる土気が水気を抑えてしまう。=黄龍の復活。
 黄家の皆さんが黄帝にもらった言葉なんてものは、紙なんかではなく、木片(木簡ですらない)に書きつけられていて、長老たちもありがたがるものの、肝心の中身をすっかりと忘れてしまったのでしょう。(むしろ始皇帝が文字を統一する前に書かれたものだから、古文で難解なので読めない)
 枯れた井戸は放置されてしまいました。
 そして力を蓄えすぎた黄龍は五行の調和を崩しました。土気は土用なので、季節が移り変わる時(18日ぐらい)を意味します。なので季節の停滞が起こりました。次の季節がこないのです。

 『星籠』は封印を解く道具です。
 だから、井戸に投げ込むので正解なのです。

 加筆版では少々、語っていますが「琴」は「龍」や「陰陽五行」に関する物です。
 日本の琴に関して言えば「琴」は横たわる龍をイメージして、部分ごとの名前が決まっています。「龍頭」、「龍尾」など。
 中国の古琴はサイズはまちまちで、製法もまちまちですが、唐の時代に成立した形は「陰陽五行」の色の強いものになっているそうです。
 また楽器は荒ぶる神を静める道具であることも多いので、黄家の跡取り息子の黄垣筐の日常は「琴」を中心に書きました。

 林圭籃が水(井戸・応龍江)にこだわったのは、女性で陰の気(水)だということもあります。
 母系社会の名残というモチーフが大好きな私ですので、キーになる人物はやはり少女が良かった。という作者の贔屓もあります。
 Y1遺伝子も良いのですが、ミトコンドリアにも良さがあると思うのです。

 正午は陽の気から陰の気に変わる時間です。陽でも陰でもないので、土属性に当たります。
 冬至は一年で一番「昼(陽)」が短く、水が解放されるのにふさわしいと考えました。
 (五行だと冬至から十二支が始まって「子(ねずみ)」で、属性が「水」なのです)
 『歌う』のは五行の五声で土属性で、「極北(北極星)」も土属性です。
 とにかく五行をこだわって封印を解くシーンを書きました。

 虹は、龍の眷属です。だから、ラストシーンに虹を出しました。
 黄龍に、お独りで帰ってもらうのは寂しいかなぁと思ったのが理由です。

 というわけで、原稿用紙20枚の中で組み入れた設定の大まかなところは、こんな感じです。

 改稿しました。原稿用紙で45枚に増えました。
 面倒くさがりなので普段はまず加筆はしないのですが、オフでの熱心の勧めもあって満足できるラインまで修正しました。
 この後書きも、やはり勧めがあってのことです。
 『井戸譚』はフォローをしないともったいない話だと言われ、ちょっと洗脳されました。
 書いている過程で自然と変わってしまったものが、問題になるぐらいあったので、改稿前(覆面作家2に提出バージョン)と改稿後をサイトにはアップさせていただきました。
 どちらが良いのか、作者の私にはわかりません。
 読んでくださった方が好きだと感じてくれたほうが、良い話なのだと思います。

 『井戸譚』話、最後に。
 付け焼刃的な知識なので、間違っている場所もいくつかあると思います。
 話の構成のために、あえて無視したもの、曲げて解釈したものもあります。
 陰陽五行の世界は深いので、興味が湧いた方は、それらを研究しているサイトさまに当たることをお勧めします。
 『井戸譚』は参考にしても良いことはありません(汗)

 長い後書きを最後までお読みくださり、ありがとうございました!


以下、とてもお世話になったサイトさま

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
陰陽
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%B0%E9%99%BD
五行思想
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%94%E8%A1%8C%E6%80%9D%E6%83%B3
黄帝
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%BB%84%E5%B8%9D

思索の遊び場(http://www.sf.airnet.ne.jp/ts/indexj.html)内の「親族名称の比較(http://www.sf.airnet.ne.jp/ts/language/kinship.html)」