6.虹



 枯れ葉舞う季節。
 町も冬支度を始める。
 それなのに、少女の足はあいかわらず軽やかだった。
 冬服の濃紺色のスカートのすそがひるがえる。
 細くて白い足のラインが見えて、少年は目を逸らす。
 帰り道。
 仲良く、今日も一緒。
 いつまでも続かない……道。


「宗ちゃん」
 少年の考え事を打ち消すように、燈子は明るく声をかける。
「虹を探そう!」
 燈子は言った。
 宗一郎は、ためいきをついた。
 幼なじみをして、もう10年。
 それでも、考え方がわからない。
「とーこ、一人じゃ見つけられないから。
 宗ちゃんも手伝って」
 燈子は真剣に言う。
 確かに、虹探しは大変なことだろう。
 いつでも見れるわけではない。
 空に虹が現れたとしても、すぐに消えてしまう。
 見る角度だって、重要だ。
 絶好の観測ポイントを見つけて、天気予報とにらめっこして、ひたすら待つ。
 かなりの労力だろう。
 一人でこなすのは、大変なことだろう。
 それだけの理由で、現代高校生が真剣に頼みごとをするのは、何かおかしかったが。
「探すだけか?」
 宗一郎は慎重に尋ねた。
 虹だけなら、人の手で作り出すことは可能だった。
 小さな虹なら、庭でも、部屋の中でも作れる。
「ううん」
 燈子は首を横に振る。
 馬のしっぽのようにくくった長い髪が、宙に広がる。
 得意げに、燈子は笑う。
 出会った頃のままの、笑顔だ。
「くぐるの!」
 燈子は言った。
 予想外の答えだった。
 世界に虹脚埋宝伝説は数にあれど、……くぐる?
「くぐってどうするんだ?」
 宗一郎は尋ねた。
「一人じゃないよ。
 宗ちゃんと、いっしょ!」
 質問とは違う返事が返ってきた。
「えへへ♪」
 嬉しそうに燈子は、宗一郎の左手をつかむ。
 正確には、薬指と小指の2本を、燈子の小さな手が握る。
「見つかると良いね、虹」
 燈子は言う。
 小さい燈子は、宗一郎の肩の高さに足りない。
 二人の距離が縮まれば縮まるほど、二人の視線が合わなくなってきた。
 宗一郎は体をかがめて、少女の顔を覗き込んだ。
 燈子は笑っていた。
「いっしょだからね」
 澄んだ声が約束する。
 宗一郎は、うなずいた。

 二人は帰り道を歩く。
 一緒に。
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