第三十章

 その日は本当に綺麗な青空が広がった日だった。
 雲一つない、快晴。
 空を飛ぶ白鳥が悲しく見えるほど、晴れ渡っていた。



 チョウリョウは再び主を失ったのだ。
 武烈の君と呼ばれ、人々に慕われたコウレツは短すぎる生を閉じた。
 南城にいたホウスウは、それによりて帰還。
 即日、即位。
 鳳の君と呼ばれる青年は、見事大空を舞って見せた。
 鳥陵 建平元年 七月。
 後に文帝と諡される飛鵬雛 即位。
 彼は皇帝となったのだ。



 少年はシキボで今日も空を見上げていた。
「ソウヨウ、ここにいたのか」
 青年に声をかけられ、少年は振り返る。
 慇懃に拱手する。
「兄上が亡くなった」
 ホウスウは淡々と告げた。
 怜悧な美貌には、翳り一つ見出せない。
「そうですか」
 ソウヨウはあっけらかんとうなずいた。
 まるで天気の話でもするように。
「私はシキョ城に戻る。
 シキボは、任せた」
 ホウスウは言った。
「かしこまりました」
 ソウヨウはもう一度拱手する。
 ゆったりとした動作だ。
 動揺は全く見えなかった。



 少女は花瓶に花を飾っていた。
 手ずから手折った花は、院子の花薔薇。
 美しい紅色。
「兄様が」
 伝令にもたらされた話に、少女は納得した。
「そう。
 では……幸い、なのかも知れないわね」
 ホウチョウは呟いた。
「義姉様が心配だわ。
 見舞いに」
 少女は言った。



 孤独な王は、独り玉座に着く。
 誰にも聞こえない声で、一人呟く。
 戻ることのできない道に一歩踏み出したことに後悔しているのか。
 決別してきたものに強く惹かれているのか。
 苦渋に満ちた顔であった。
 王は暗闇の中、目を閉じた。
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