第八十三章

 緑が煌き風がよく吹く1日。
 堂内にも日差しは手を伸ばし、気持ちの良い空間を作っているはずだった。
 大司馬府が開かれた鷲居城の一室。
 堂内に集った人物の表情は曇りがちであった。
 七人の将軍と一人の副官はみな文官に似た装いだった。佩刀をしている。その一点が大きな違いだろう。
 皇太后と公主の住まう宮殿であることから生まれた雅な規律だった。
 将軍で欠席したのはギョウ・トウテツ。千里を一夜にして駆ける青年は、与えられた職務が多すぎて任地から離れることができなかったのだ。その代わりに副官が出席している。
 大司馬府を開き、大幅な人事異動をして以来の顔合わせになる。
 半月では任地との繋がりも薄いだろう。そして、ソウヨウのお友だちを除けば、横のつながりも薄いだろう。
 幾千の戦火を生みだした大きな卓にソウヨウは着く。
 鳳凰城からの派遣された書記官は、邪魔にならない位置に置かれた小卓についている。
 各々の席にお茶を置かれたのを見て、ソウヨウは口を開いた。
「これだけの人数が集まると壮観ですね」
 穏やかな口調で言う。
「数々の戦を乗り越えた仲間です。
 個人の矜持など、無用なものはひとまず置いておきましょう」
 緑の瞳は八人を見る。
 緊張感、疑惑が形になって見えるようだった。
 派遣されてきた書記官を見て
「こちらは陛下の代理と書記官の方たちです。
 陛下がお選びになった方々ですから、公明正大な方々でしょう。
 よろしくお願いします」
 ホウスウの代理に、ソウヨウは頭を下げた。
「単刀直入に言います」
 婉曲に言って誤解を生み出すのは、仕事を増やすだけだ。
「我が軍の情報が漏洩しています。
 ささやかなものであっても許されることではありません。
 情報を制すものは世界を制す。
 陛下が常々、おしゃっていることです」
 ソウヨウはためいきを一つつく。
「今までに心当たりがあった方もいるでしょう。
 けれども、私は八将軍の中にはいないと信じています」
 青年は一人一人の顔を見る。
 人選したのは己だ。
 情報漏洩するようなうかつな人物がいるとは信じがたい。
「賭けが大きすぎるからです。
 耳ざとい陛下に勝てると信じている方がどれだけいるでしょう。
 ここにいる皆さんは肌で感じているでしょう」
 ソウヨウは言った。
 場に安堵がにじみ広がる。
「カクエキ。報告を。
 一番初めに、この件に気がついたのは貴方でしたからね」
 一度は聞いた報告を、さらに聞く。


 ヤン・カクエキの報告から始まった会議は、報告会となった。
 間者がどこの国から放たれたものなのか。
 それは水掛のような推論しか得られなかった。
 半月かけて集まったのに、答えは半月前と代わり映えのしないものだった。
 漠然とした不安、疑心暗鬼が増しただけ、悪くなった。
 たっぷり二刻話したところで、会議はお開きになった。
 有意義な情報が集まるとは思えないという理由での打ち切りだった。
 ソウヨウはこの場にいないギョウ・トウテツが羨ましいと感じた。


「半月ぶりの顔合わせです。
 今日はささやかながら宴の席を用意しました。
 皇太后と公主がいらっしゃいますので、都並とはいえませんがどうかおくつろぎください」
 会議の締めに、ソウヨウは言った。
 今回は懇親会という名目で集まったのだから、名文も形にしてやらなければならない。
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