呂布との出会い




 ボクはこの世界が好き。
 だって、綺麗な貂蝉様がいて、優しい文遠様がいるから――。



、今日はこれをお願いね」
 巻き終えた竹簡を、貂蝉に渡される。
「はい!
 これはどこに持っていけばいいんですか?」
 は元気よく返事をして、それを受け取る。
「これはね、新しいところだから道順を教えるわね」
 優しい微笑みを浮かべて、美しい女性は言った。
「ありがとうございます」
 それに応えるように、も笑ってみせた。



「う〜んと、ここを曲がってと……」
 貂蝉からもらった地図を手に、は広い邸内を歩いていた。
「ここのあたりなんだけどなぁ」
 きょろきょろと辺りを見回す。
 何か召集でもあったのか、人の影がない。
 道を訊けないのは不便だったが、今のにとっては好都合だった。

 渡された竹簡は、「呂布」という人物に宛てての手紙。
 貂蝉から、「決して私の名前を出しては駄目」と念を押されたのだ。
 何が書いてあるのかは分からない。
 けれど、とても大切な内容だというのは分かる。
 だから、ここに人がいないのは都合がいい。

 は、地図とにらめっこしながら、進もうとした。

「誰だお前は」
「え、あっ!」
 突然、背後から声をかけられた。
 思わずびっくりして、は声を上げた。

 人の気配、しなかったのに……。

「誰だと訊いている」
 仕方なく振り返り、は声の主を見た。

 お、大きな男の人だな〜。
 それに、ちょっと怖いかも。

 びくびくしながら、差しさわりのない答えを探す。

「ボ、ボクはその……お使いを頼まれてて……」
「誰にだ?」
 低い声が、上から降ってくる。
 どっしりとした、ちょっと怖い声。

 うっ、貂蝉様のお名前は言っちゃ駄目だから、えっと……。

 は頭をフル回転させる。
 緊張で、声が上手く出せない。
 足が少し震える。

「えっと、えっと……」
「さっさと言え!」
 苛立ちげに、大男は怒鳴る。
 怖くて、思わず目をつぶってしまう。
「す、すみません!
 りょふさまって、仰る方なんですけど……」
 泣き出しそうなのをこらえて、はやっとのことで相手の名を言った。

 これだけなら、大丈夫だよ、ね?

 心の中で自分に問いかける。
 貂蝉の笑顔が、頭を過ぎる。
 いっぱいいっぱいの心を、何とか押さえつける。

「俺にか?」
 無愛想に、目の前の男が言葉を発する。
「え?」
 驚きつつも、は男を見上げる。
 憮然とした態度は変わらない。
「呂布とは俺だ。
 誰からだ?」
「それは、その……」

 どうしよう、訊かれちゃった。
 人の気配はないけど、どこかにいるかもしれないし……。

 ちらっと周りを見る。
 人影は見当たらない。

 けど、貂蝉様には言っちゃだめって言われたし。

「はっきりしない奴だな!
 いい、もう貸せ!」
「あっ!」

 の態度が気に入らなかったらしく、呂布は竹簡を取り上げた。
 そして、おもむろに竹簡を開き、その場で読み始めた。

 ど、どうしよう。
 これで、いいのかなぁ?

「…………ふん、そういうことか」
 カシャン、と音がして竹簡が巻かれていく。
 どうやら、読み終わったみたい。
「ついて来い」
 ちらりとこちらを見て、呂布は短くを呼んだ。
「え、あ、はい!」
 大股で歩く呂布の後を、小走りでついて行った。



「これを持って行け」
 部屋の前で待たされ、渡されたのは大きさの違う二つの布袋だった。
「これは……?」
 頭の上にはてなマークを浮かべていると、呂布は無愛想に告げた。
「先ほど女官からもらった。
 甘いものは好かん。
 お前にもくれてやる」
 言って、呂布は布袋を前に突き出す。
 小さいのはお前のだ、と言って。
「いいんですか?」
 ぽかんとしていると、呂布はほんの少し笑った。
 照れくさそうに、ふんと声を上げて。
「さっきは悪いことをしたな。
 主に良く仕えている褒美とでも思っておけ」
 視線がそらされる。
 その様子は、とても怖い人には見えなかった。
「ありがとうございます!」
 元気にお礼を叫ぶ。

 ボク、ちゃんとお使いできたんだ!
 良かった、ボクはちゃんと貂蝉様のお役にたってるんだ!

 嬉しくて、嬉しくて。
 顔はほころんで、上気している。

「変な奴だな」
 呆れたように、男は言葉を紡ぐ。
 でも、何となく優しそうな表情だった。
「そ、そうですか?」
「さっさと行け」
 大きな手が払う。
 もう行ってもいいみたいだ。
「はい、では失礼いたします」
 ぎこちなく、習いたての拱手をし、はその場を後にした。



 呂布様って、とってもいい人なんだな!

 甘いものをもらって、はとても上機嫌に主の元へと帰って行った。



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