鍛錬の後




「よし、今日はここまでにしよう」

 武の師匠、張 文遠が、に伝えた。

「はい!」

 は、この瞬間が好きだった。
 鍛錬を終えたとき、それまで厳しい表情だった文遠が笑うから。
 その笑みを見られる一瞬が、大好きだった。



の瞳は、不思議な色をしているな」

 文遠がそっとこちらを覗く。
 視線があって、ドキッとした。

「そ、そうですか?」

「おや、自分では気がついていなかったのか?」

「いえ……。
 その、気持ち悪くないですか?」

 思わず、は身構えた。

 絶対、文遠さまも言うんだ。
 変な色だって。
 だって、みんな言ってた。
 黒じゃなくて、青でもなくて、微妙すぎる色だって。
 日本人じゃないみたいだって。

 うつむきながら、は思った。


「いやいや、とても綺麗な色をしている」


 文遠は、にこりと笑って答えた。
 それが信じられなくて、少女は顔をぱっと上げる。

「そんなこと、今まで言われたことなかったです」

 は、控えめに笑う。
 嬉しくて、嬉しくて。
 でも、感情を上手く出しきれなくて。
 だから、微かに笑った。

「夜の空と同じ色だな。
 うむ、自慢してもいいと思うぞ」

 笑って、文遠はの頭を撫でた。
 その大きな手は、とても温かかった。

「文遠さまは、お優しいですね」

 頬が赤くなっていくのが分かる。
 よく分からないけど、顔が熱い。
 風邪を引いたわけでもないのに、何となく熱っぽい。

「そうか?
 面と向かって言われると、何やら照れくさいな」

 言って、文遠は髭の辺りを撫でた。




 この世界に来て、最初はすごく辛かった。
 董卓さまのこととかもあって、すごくすごく嫌だった。
 でも、辛いけど嬉しいこともある。
 文遠さまや、貂蝉さまに会えた。
 先日お会いした、呂布さまもとても良い人だった。

 だから、ほんの少し救われている。
 神様がいたとしたら、全く見放してるわけじゃないのかも?
 そんな風に、最近思う。
 ボクは、お世話になりっぱなしだけど。
 いつか、ボクを救ってくれた人たちに恩返しをしたい。

 そう、思っていた。



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